自転車社会学会2008/3/8作成
自転車の安全利用のための通行方法等について(全文)

警察庁ホームページの「自転車の安全利用のための通行方法等について」報告書をテキスト化しました。PDFファイルをテキスト化しましたので原テキストと同一ではありません。正確には原ファイルをご参照ください。

自転車の安全利用のための通行方法等について
平成19年12月
自転車の安全な通行方法等に関する検討懇談会

自転車の安全な通行方法等に関する検討懇談会委員名簿
【座長】吉田章よしだあきら:筑波大学大学院人間総合科学研究科教授
【副座長】松浦常夫まつうらつねお:実践女子大学人間社会学部人間社会学科教授
【委員(五十音順)】
亀田清人かめだきよと:(財)日本交通安全教育普及協会教育推進室主幹
古倉宗治こくらむねはる:(財)土地総合研究所理事
小鷹狩幸一こだかりこういち:(財)自転車産業振興協会統括事業部長
野上正邦のがみまさくに:(財)全日本交通安全協会安全対策部長
吉岡耀子よしおかようこ:(株)JAFメイト社ウェイズ編集部編集長

懇談会開催経緯
平成19年5月31日(木)第1回懇談会
平成19年7月11日(水)第2回懇談会
平成19年10月1日(月)第3回懇談会
平成19年12月14日(金)第4回懇談会

はじめに

自転車は、国民の身近な交通手段として多様な用途・目的で幅広い年齢層に利用されており、我が国の主要な交通主体の一つとしての役割を担っているが、一方で、近年、自転車が関係する交通事故が多発するとともに、自転車が無秩序に歩道を通行している実態が見られるなどの問題も指摘されている。
こうした中、警察庁において自転車の交通管理の在り方についての検討が進められ、本年6月、自転車の歩道通行要件の見直しや児童・幼児の自転車乗車時のヘルメット着用努力義務等について規定する改正道路交通法が成立・公布となり、約30年ぶりに道路交通法の自転車に関する規定の改正が行われた。また、警察庁では、自転車に関するルールの周知と安全教育、法令違反に対する指導取締り、自転車の通行環境の整備を柱とする自転車の交通秩序整序化に向けた総合対策の取組みを進めている。
言うまでもなく「自転車の交通秩序を整序化」し、自転車の安全利用を促進するためには、広く国民に自転車の通行方法等に関するルールが周知されることが必要不可欠である。自転車の通行方法等については、道路交通法を始め、同法施行令及び施行規則、更に各都道府県の公安委員会規則等に定められているが、国民への周知徹底を図るためには、これらに基づくルールが可能な限り具体的に分かりやすく国民に示されることが求められる。
そこで、当懇談会では、道路を通行する者が適正な交通の方法を容易に理解することができるようにするため作成されている現行の「交通の方法に関する教則」をベースとして、改正道路交通法の内容や最近の自転車をめぐる諸状況等を踏まえた教則の見直しの方向性を始め、国民に周知すべき自転車の安全な通行方法等について検討を行った。また、検討に資するため、自動車安全運転センターが本年度実施している調査研究の中で得られたデータの提供を受けたほか、幅広い立場からの御意見を参考とするため、有識者及び関係団体等に2回にわたり御意見を伺った。
本報告書は、当懇談会において、本年5月から4回にわたり重ねてきた議論の結果を取りまとめたものである。

1検討に当たっての基本的な考え方

当懇談会では、道路交通法を始めとする現行法令を前提に「交通の方法に関する教則」(昭和53年国家公安委員会告示第3号)をベースとして検討を行うこととした。
教則等の検討を行うに当たっては、本年の道路交通法改正(以下「法改正」という。)が自転車と歩行者・自動車の適切な共存を図るための実効性のあるルールを。整備するという観点から行われたものであることを踏まえ、特に以下のような考え方に配意した。

(1)自転車の車両としての位置付けの明確化

自転車は道路交通法上「車両」の一つであり、したがって、他の車両と同様、車道を通行することが原則とされているものであるが、こうした自転車の車両としての位置付けについての一般の理解が必ずしも十分でない現状にある。また、このような認識の不明確さが、自転車の歩道における無秩序な走行やルール違反につながっているほか、自動車の運転者において車道を通行する自転車への配慮を欠く要因ともなっていると考えられる。
自転車の車道通行の原則は、「自転車の安全利用の促進について」(平成19年7月10日付け交通対策本部決定)で定められた「自転車安全利用五則」の一番目にも掲げられているところである。
そこで、自転車の車両としての位置付けを教則においてより明確化し、自転車や自動車の運転者に改めて認識を促すとともに、自転車の運転者に対し車道を通行する上での安全のため周知すべき事項について検討することとした。

(2)自転車と歩行者・自動車が適切に共存するためのそれぞれの通行方法等の明確化

自転車は原則として車道を通行すべきものであるが、我が国の多様な自転車利用の実態や道路事情等を考慮し、道路交通法では、一定の要件に該当する場合に普通自転車(注)が歩道を通行することができることとされている。
自転車道や車道の自転車通行空間の整備が求められるところであるが、現実的には、交差点等で各交通主体が交錯するほか、自転車道以外の車道で自転車と自動車が、歩道で自転車と歩行者等が通行場所を共有する状態となることを前提として、各交通主体が適切に共存できるようなルールを考える必要がある。
そこで、歩道における歩行者の安全及び車道における自転車の安全の優先を念頭に、法改正を踏まえた自転車の歩道通行要件と通行方法の明確化を図るとともに、自転車と自動車、歩行者それぞれの視点に配意しつつ、それぞれの交通主体について周知すべき事項について検討することとした。

(3)最近の通行実態等を踏まえた自転車の危険・違反行為に対する警告

近年の自転車をめぐる論調の中で最も強いのは、携帯電話やヘッドフォンを使用しながらの運転を始め、歩道等における自転車の運転者のルール無視やマナーの悪さを指摘するものであると認められる。自転車に関する違反行為については道路交通法等のほか、都道府県公安委員会規則に定められている場合もあるが、これらも含め教則等にできる限り自転車の危険・違反行為について示し、自転車を利用する国民に対し警告を発し注意を促すことが重要と考えられる。また、法改正により、自転車の通行実態等も踏まえ、「守ることができるルール」への見直しが図られたことなどからも、自転車の運転者において、特に歩道上でのルールの遵守が強く求められるところである。
そこで、最近の自転車の通行実態や自転車をめぐる動き等を踏まえつつ、教則等に盛り込むべき内容として、自転車の運転者に対する禁止・注意事項について検討することとした。

(注)普通自転車とは、車体の長さが190センチメートル以下、幅が60センチメートル以下で、その構造として側車を付していないこと、歩行者に危害を及ぼすおそれがある鋭利な突出部がないこと等の要件を満たしている自転車をいう(道路交通法施行規則第9条の2)。

2自転車の安全な通行方法等に関し周知を図るべき事項

以下、自転車の安全な通行方法等に関して国民に周知すべきと考える事項について、個別に指摘する。
なお、自転車の通行方法等に関する広報啓発や実際の安全教育の場においては、教則をもとに作成された「自転車の交通安全ブック」((財)全日本交通安全協会作成)や「自転車ハンドブック」((財)日本交通安全教育普及協会作成)等の資料が活用されているところであり、以下では、教則の見直しの方向性について提示するほか、これらの各種資料に反映させることなどにより国民に周知することが望まれる事項についても言及する。

(1)自転車の運転者に関し周知すべき事項(教則第3章「自転車に乗る人の心得」)

1自転車に乗るに当たっての心得

現行教則第3章第1節「自転車の正しい乗り方」では「1乗ってはいけない、場合」として、自転車の運転が禁止される場合や自転車に乗るに当たっての注意事項等が、「2自転車の点検」として自転車に乗る前の点検要領等が示されている。

ア法改正により、自転車乗車中の事故における被害軽減を図るため、児童及び幼児が自転車に乗車する際の乗車用ヘルメットの着用努力義務の規定が新たに設けられたことから、

○保護者は、子供が自転車を運転するときや、幼児を幼児用座席に乗せるときは、子供に自転車乗車用ヘルメットを着用させるようにしなければならないこと

を教則で示す必要があるとともに、被害軽減の観点からは児童や幼児に限らずヘルメットを着用することが望ましいことから、

○自転車に乗車するときは、安全のためできるだけヘルメットを着用するようにすべきこと

を周知すべきである。また、自転車に乗る際の服装等について、事故を防止する観点から、

○雨の日に自転車に乗るときは、傘を使用せず、雨合羽等を着用すべきこと
○ズボンの裾や荷台のひもがチェーンやスポークに巻き込まれることなどがないよう服装等に留意すべきこと
○自動車等の運転者や歩行者等から見やすいように、できるだけ明るい目立つ色の衣服を着用すべきこと

を周知すべきである。

イ「1乗ってはいけない場合」では、「交通量の少ない場所でも二人乗りは危険ですからやめましょう。ただし、幼児用の座席に幼児を乗せているときは別です。」としているが、例えば前かご部分と後方の荷台部分の両方に幼児を乗車させている運転者も見られ、このような運転は違反であり危険でもあることから、

○幼児用座席に幼児を乗せる場合は一人までであること

を明示すべきである。なお、幼児を同乗させた場合、停車時においても転倒する危険があるので、

○幼児を乗降させる場合は十分注意し、幼児を乗せたまま短時間でも自転車から手を離すことのないようにすべきこと

を周知すべきである。
また、「かさを差したり、物を手やハンドルに提げたりして乗るのはやめましょう。」としているが、傘を差すことのほか、最近は傘を自転車に固定して運転しているケースが見られ、このような状態での運転は、不安定となったり視野が妨げられたりして自らが危険であるほか、周囲の歩行者等にも危険を及ぼすおそれもあり、安全運転義務(道路交通法第70条)違反等に該当する可能性も高いことから、

○傘を自転車に固定して運転することも危険であること

を明示すべきである。

ウ「2自転車の点検」において、点検項目として「(10)尾灯や反射器材は付いているか。」とあるが、夜間における様々な状況下での自動車運転者等からの視認性を高めるためには、後部の反射材のみならず側面反射材の装着が望ましいことから、

○反射器材については、後部反射材及び側面反射材の両方であること

を明示すべきである。
また、「自転車は、努めてTSマークとJISマークの付いたものを使いましよう。」としているが、自転車の車体の安全性を保証するものとしては、TSマーク、JISマークのほか、BAAマーク(注)等もあることから、限定的でない表現とすることが適当である。

(注)BAAマーク制度とは、自転車の安全性向上と環境保全を目的として(社)自転車協会が、2004年9月から開始した制度で、同協会が定めた自転車安全基準に適合していることが確認された型式の自転車にBAAマークが貼付される。

2自転車の正しい乗り方(合図)について

教則第3章第1節の「4自転車の正しい乗り方」では、乗車、右左折、停止等の基本的な動作について示しており「(2)右折、左折する場合は、できるだけ、早めに合図をしましよう「(5)停止するときは、安全を確かめた後、早めに。」、停止の合図(右腕を斜め下に伸ばすこと)を行い、......」などとされている。
これは、道路交通法等により、右左折や停止等を行う場合には所定の時期、方法等で合図を行わなければならないことを受けたものであるが、自転車運転中のこれらの合図については、合図を行うこと自体の必要性は認められるものの、現行法令が定める時期、方法等に従って手信号による合図を行うことは困難との指摘が強く、現実にも合図自体が行われていない場合が多い。
このため、自転車の運転について実施すべき合図の在り方について検討したが、運転者が安全に実施することができ、かつ、周囲の車両等からの視認性が高い合図とはどのようなものか(合図の始期・終期、方法、継続性の程度等)について直ちに結論を得ることはできなかった。また、合図のために片手運転となることを回避するためには自転車に方向指示器が装備されていることが望ましいと考えられるが、その普及の可能性については現段階では判然としない。
そこで、当面、現行教則により、合図を行うことの必要性及び可能な限りの合図の励行について自転車運転者等に周知を図りつつ、望ましい合図の在り方については、方向指示器等に関する関係業界との協議を含め、警察庁において引き続き調査研究し、結論を得るよう促すことが適当と判断された。

3自転車の通るところについて

教則第3章第2節「安全な通行」の「1自転車の通るところ」では、自転車の通行すべき場所とその通行方法について示されている。

ア「1自転車の通るところ」では「(1)自転車は、車道を通るときは、道路、工事などの場合を除き、道路の左端に沿って通行しなければなりません。」、「(4)普通自転車は、自転車歩道通行可の標識(付表3(1)28)のある歩道を通ることができます。この場合、次の方法により通行しなければなりません。......」
などとしている。道路交通法上、自転車は車両の一種であることから、他の車両と同様に当然車道を通行することが原則であることを前提とした表現となっていると考えられるが、実際には、この原則自体が十分に理解されていない現状にある。
したがって、自転車は車道を通ることが原則である(普通自転車は、自転車道があるところでは、自転車道を通らなければならない)ことを明示した上で、車道又は自転車道における通行方法、路側帯を通行できる場合とその通行方法、歩道を通行できる場合とその通行方法等を示すことが適当と考えられる。
また、「車両」である自転車が車道を通行するときは左側通行が原則(軽車両については原則として左側端)であるが、車両としての認識の欠如から右側を通行しているケースも見られるので、右側通行は法律違反(道路交通法第17条第4項)であるとともに、自動車からの視認性や相対的速度等の点で極めて危険であることについて周知すべきである。

イ法改正により、普通自転車が歩道を通行することができる場合として、「道路標識等により普通自転車が当該歩道を通行することができることとされているとき」(改正後の道路交通法第63条の4第1項第1号)のほか、「当該普通自転車の運転者が、児童、幼児その他の普通自転車により車道を通行することが危険であると認められるものとして政令で定める者であるとき」(同第2号)、「車道又は交通の状況に照らして当該普通自転車の通行の安全を確保するため当該普通自転車が歩道を通行することがやむを得ないと認められるとき」(同第3号)が規定されたことから、現行教則の1(4)の部分を改める必要がある。
特に第3号に関しては、どのような場合がこれに該当するか、具体的に示すべきであるが、同規定は、第1号や第2号に該当する場合のほか、自転車運転者が危険を回避し安全を確保するため緊急避難的に歩道を通行することができることとする趣旨と考えられることから、

・道路工事や連続した駐車車両などのために車道の左側を通行することが困難な場所を通行する場合
・著しく自動車等の交通量が多く車道の幅員が狭いなどのために、追越しをしようとする自動車等との接触の危険がある場合

を例示することが適当と考えられる。
なお、第3号の規定については、個々の自転車運転者の主観的判断によって解釈が徒に拡大されることのないようにする必要があるとともに、日常的に「自動車等との接触の危険」が生じているような道路については、関係当局において車道における自転車の通行空間の整備等を行い、そのような危険が解消されるよう努めるべきである。
また、第2号に関連して、歩道を通行することができる児童・幼児以外の運転者について、警察庁が従来説明している「高齢者」のほか、幼児を同乗させている運転者、児童・幼児が運転する自転車と同行している自転車の運転者についても配慮が必要との意見があった。第2号の規定が運転者の属性に着目して車道通行が危険と認められる場合に歩道を通行できることとした趣旨等から考えると、規定の適用対象を拡大することは困難と考えられるが、これらの運転者に対する適切な通行方法の指導や自転車の通行環境の整備等を行い、その安全な通行を確保する努力が必要と認められる。

ウ普通自転車が歩道を通行する場合の通行方法についても、法改正を踏まえ、

○歩道では徐行しなければならないが、自転車の通行部分が指定された歩道において、その部分を通行し、又は通行しようとする歩行者がいないときは、歩道の状況に応じた安全な速度と方法でその部分を通行することができること
○警察官や交通巡視員が歩行者の安全を確保するため、普通自転車について歩道を通行してはならない旨を指示したときは、その指示に従うこと

を示す必要がある。
また、そもそも歩道では歩行者の通行が優先され、そのため、歩道を通行できる場合でも自転車には徐行や一時停止の義務等が課されているものであるが、このような基本的な考え方が十分理解されていないことが自転車の歩道での無秩序な走行につながっていると考えられることから、

○自転車は歩道では歩行者優先で通行すべきこと
○警察官等から指示があった場合のほか、歩行者の通行を妨げ、又は歩行者の安全を損なうおそれがあるときは、歩道では自転車を押して歩くこと

についても明示することが適当と考えられる。

エイのとおり、改正道路交通法の施行後は、児童・幼児等については車道、歩道のいずれも通行することができることとなることに伴い、これらの者に対して自転車の通行場所についてどのように指導するかという問題がある。改正後の道路交通法第63条の4第1項第2号の規定が運転者の属性に着目して車道通行が危険であるものとして歩道を通行できることとした趣旨を考慮すれば、これらの運転者の安全のためには歩道を通行することが適当と考えられるが、これらの者についても、車道通行が原則であることに変わりはなく、また、歩道通行について法律上認められた速度よりも速く走行しようとする場合には、当然車道を通行しなければならないものである。
したがって、この点については、歩道を通行することができる場合であっても、徐行(普通自転車通行指定部分では、歩道の状況に応じた安全な速度と方法で通行)しなければならないものであり、これよりも速い速度で通行しようとするときは車道を通行しなければならないということを指導することが適当と考えられる。なお、幼児はもとより、児童についても、自転車の運転能力に加え、車道通行の適否の判断能力が未熟と考えられることから、発達段階に応じ、車道通行する際の自転車の乗り方や遵守・注意事項等について教育を受けた後に車道通行について指導することが適当と考えられる。

オ上記のとおり、改正後の道路交通法では自転車の歩道通行に関して、「徐行」と「歩道の状況に応じた安全な速度」が示されており、この「徐行」については「車両等が直ちに停止することができるような速度で進行すること」(同法第2条第1項第20号)とされ、また「歩道の状況に応じた安全な速度」は、「直ちに徐行に移ることのできる速度」と解されているが、それぞれ具体的にどのような速度であるかは必ずしも明確ではない。今後、歩道上での適正な速度での通行を徹底していくためにも、これらについてできる限り分かりやすい形で目安を示して周知することが望ましいと考えられる。
「徐行」については、歩道では歩行者との混合交通となることを考慮すれば、速度の出し過ぎにより歩行者に危険を及ぼすことがないとともに、自転車のふらつきによる危険を生じさせないような速度である必要があり、その意味で「徐行」の速度の目安は「ふらつかない程度に走行できる最も遅い速度」とすることが適当と考えられる。
このような速度については、運転者の身体能力等に個人差があるほか、自転車の制動時間・距離は荷重、路面状態等によっても異なるので、一概には言えないが、自動車安全運転センターの調査研究における実験結果(別添資料7)では安定的に走行できる最も遅い速度の平均速度は時速約7.5キロであり、これは概ね「大人の早足程度」の速度と考えられる。なお、時速7.5キロで走行した場合の制動距離は、JIS規格の制動性能試験の条件により制動させた場合の同規格の基準に適合した自転車(シティ車)では、約1.21メートル以内となっている(注1)。
また「直ちに徐行に移ることのできる速度」についても、同様に一概には、言えないが、概ね「大人のランニング程度」の速度と考えられる(注2)。

(注1)JIS規格では、前後輪に180Nのブレーキ操作力、負荷100kg等の諸条件で行った性能試験により、路面乾燥時に走行時速16kmで5.5m以内の制動距離であることが基準とされており、これを初速7.5kmに換算すると制動距離1.21mとなる。なお、自転車産業振興協会技術研究所が同規格に基づき性能試験(平成18年度自転車試買テスト)を行ったシティ車及び折り畳み自転車24台の測定結果では、路面乾燥時、走行時速16kmでの制動距離は、1.87~2.63m、平均2.20mであり、この平均制動距離を初速7.5kmに換算すると、0.48mとなる。
(注2)上記と同様のJIS規格適合自転車では、制動を開始して0.5~1.0秒で時速7.5キロとするための制動開始時の速度は時速約10.7~14.0キロとなる。また、高校生男子の1,500m走の標準レべルは概ね6分程度、一般男子大学生の12分間走の標準レべルは、概ね2,500m程度と言われており、これを時速に換算すると前者は時速約15キロ、後者は時速約12.5キロとなる。

カ上記のほか、自転車が車道と歩道との乗り入れを自由に行っている実態も見られるところであるが、このような行為を安易に行うことは、自転車が車両であることの認識の希薄化を助長するのみならず、乗り入れの際の歩道での歩行者との衝突又は車道での自動車等との衝突のおそれもあり危険であると考えられる。特に、歩道を通行してきた自転車が交差点直近で車道に乗り入れ、車両用信号の青色灯火に従ってそのまま交差点を進行するような行為は危険であるほか、歩道から車道に乗り入れた自転車がそのまま車道の右側を通行するような状況も見られている。したがって、

○歩道から車道、車道から歩道への乗り入れは、車道又は歩道の状況について安全を確かめた上で行うべきであり、特に、頻繁な乗り入れの連続や交差点付近での歩道から車道への乗り入れは危険であること
○歩道から車道に乗り入れる場合には、右側通行することとならないようにしなければならないこと

等を周知すべきであると考えられる。

4横断の方法等及び交差点の通り方について

自転車の横断の方法等については現行教則第3章第2節の1(5)、2(2)に示されているほか、交差点の通り方については同節の3に示されている。

ア現行教則では、自転車が横断しようとする場合の通行場所について、「1自転車の通るところ」に「(5)道路を横断しようとするとき、近くに自転車横断帯があれば、その自転車横断帯を通行しなければなりません。また、自転車横断帯がないところでも近くに横断歩道があるときは、自転車を押してその横断歩道をわたるようにしましょう」とし、また「3交差点の通り方」で「(5)交差点や、その近くに自転車横断帯があるときは、その自転車横断帯を通らなければなりません。」としている。
これは、自転車横断帯がある場所では当該横断帯によって横断しなければならない(道路交通法第63条の6)ほか、自転車横断帯がなく横断歩道がある場所では、自転車の安全確保のため横断歩道の通行を奨励するとともに、横断歩道は歩行者の通行場所として指定された場所であり、歩行者の安全を確保する必要があることから自転車を押して歩くよう奨励しているものと考えられる
しかしながら、これは、自転車が車両の一種であることを考えれば、他の車両と比較し過度の制約を課すものでもあり、また、現実には横断歩道を自転車で通行する場合に押して歩くという通行方法はほとんど守られていない状況にある。
また、法改正により、自転車歩道通行可とされていない歩道についても、児童・幼児が運転する場合等一定の場合は自転車が通行することができることとされたため、歩道を通行する自転車が自転車横断帯の設置されていない交差点でどのように道路を横断するのか示す必要があるが、現行教則のとおり交差点の都度自転車を降りて押して歩くよう指導することについては、その実効性に疑問が持たれる。歩行者との分離を図るため、このような横断歩道への自転車横断帯の併設を拡充することも考えられるが、自転車横断帯を設けることにより、車道を通行している自転車も自転車横断帯を通行しなければならなくなる(同法第63条の7第1項)ことにも配意が必要である。
他方、横断歩道が歩行者の横断のために設けられたものであり、自転車の通行によって歩行者の通行が妨げられることがあってはならないことは言うまでもなく、横断歩道により横断する歩行者の通行を自転車が妨げた場合には違反となる(同法第38条第1項)ものである。
これらのことを考慮すれば、むしろ、横断歩道では歩行者の通行を妨げてはならないことの周知を図るとともに、

○横断歩道は歩行者の横断のための場所なので、歩行者がいないなど例外的に歩行者の通行を妨げるおそれのない場合を除き、自転車に乗って横断してはならないこと

を指導することが適当ではないかと考えられる。

なお、歩行者又は自転車の通行量が多いなど、横断する歩行者と自転車を分離する必要が高い場所等では、横断歩道に自転車横断帯を併設するなどの通行環境整備を行うよう、関係当局において更に努めるべきである。

イアのように、自転車横断帯が設けられていない場所において、歩道を通行してきた自転車が横断歩道を通行することを考えた場合には、当該自転車が従うべき信号は歩行者用信号機とすることが適当と考えられるが、現行法令では、自転車は「歩行者・自転車専用」と表示された信号機(道路交通法施行令第2条第4項)を除き、車両用の信号機に従うこととされており(同令第2条第1項、教則においてもこれに従い、第1章第2節の「1信号の意味」の(3))並びに付表1の(1)及び(2)に示されている。
上記のような場合に、信号機を「歩行者・自転車専用」とすると、車道を通行してきた自転車も規制することになり、必ずしも適当でないと考えられることから、歩道を通行してきた自転車が横断する場合に限り歩行者用信号機に従わせることとなるような方法について、関係当局において検討すべきものと考えられる。

ウ横断の方法については、上記のほか、教則第3章第2節の「2走行上の注意」において「(2)横断や転回をしようとする場合に、近くに自転車横断帯や横断歩道がない場合には、右左の見通しのきくところを選んで車の途切れたときに渡りましょう。」としているが、実態を踏まえ、自転車の横断等の際の安全を図る観点からは、このほか、

○横断しようとする場合は、斜め横断をしてはならないこと
○自転車で転回しようとする場合は、一旦停止して「横断」の方法に従って道路の反対側に渡り、自転車の向きを変えるようにすべきこと

を周知すべきと考えられる。

エ交差点の通行方法については、上記のほか、教則第3章第2節の「3交差点の通り方」において、信号機のない交差点での一時停止等((2)、右左折の)方法や注意事項((3)、(4))等が示されているが、自転車の事故の多くが交差点での出合い頭事故や自動車の右左折時の衝突事故であることを踏まえ、このほか、

○自動車の運転者が自転車の存在を認識しているか確認し、できるだけ運転者とアイ・コンタクトをとるようにして通行すべきこと

等についても周知を図るべきである。

5走行上の禁止・注意事項について

教則第3章第2節の「2走行上の注意」及び「4歩行者などに対する注意」では、自転車と自動車、歩行者それぞれの安全の観点から、自転車の通行に関する禁止事項や注意事項が示されている。

ア第2節の2及び4に示された事項のほか、近年の自転車利用の実態も踏まえ、特に歩道における歩行者の安全及び車道における自転車の安全という観点から、自転車が走行する上での禁止事項又は注意事項として、

○携帯電話の通話や操作、傘さし、物を担ぐなどによる片手での不安定な運転や、ヘッドフォンの使用等外部の音が十分聞こえないような状態での運転など、運転中に周囲の交通状況への注意がおろそかになるような行為をしてはならないこと
○自転車に荷物を積むときは、視野を妨げるなど運転の妨げになったり、自転車の安定が悪くなるような乗せ方をしてはならないこと
○警音器(べル)は、見通しのきかない交差点などを通行するとき、危険を防止するためやむを得ないときにのみ使用し、歩道等でみだりに警音器(べル)を鳴らしてはならないこと
○自転車は急制動をかけると転倒しやすく、車道でも速度を出し過ぎると周囲の状況の確認や自転車の制御が困難となるので、天候や時間帯、交通の状況等に応じた安全な速度で走行すべきこと
○車道を通行する自転車が横断歩道に近づいたときは、横断する人がいないことが明らかな場合のほかは、その手前で停止できるように速度を落として進むとともに、歩行者が横断しているときや横断しようとしているときは、横断歩道の手前(停止線があるときは、その手前)で一時停止をし、歩行者の通行を妨げないようにしなければならないこと
○駐車車両の側方を通過する場合などで進路変更をするときは、後方の安全を確かめるべきこと
○旅客の乗降のため停車中のバス等に近づいたときは、道路の左側端に停止して待つようにすべきこと
○車道では、接近してくる自動車を意識し、できるだけ運転者の死角にならないよう走行すべきこと
○ライトの点灯は、前方の安全を確認するだけでなく、自動車の運転者や歩行者に自転車の存在を知らせるものでもあるので、夜間等にライトをつけないで走行してはならないこと

等を周知すべきである。

イ自転車が歩道を通行する場合においては、その車道寄りの部分を通行することとされ、道路標識等により通行すべき部分が指定されている場合には当該指定部分を通行することとされているが、歩道上で自転車同士が対面する状況も想定されるところである。現行の教則では、自転車同士が行き違う方法については特段の記載がないが、このような状況での自転車間のルールを定めるとともに、歩行者の安全を確保する観点から、

○歩道で自転車同士が行き違うときは、速度を落としつつ安全な間隔を保ち、歩行者に十分注意して、対向する自転車を右に見ながらよけるようにすべきこと

を示すことが適当と考えられる。
なお、自転車の歩道での対面通行やこれを前提としたルールについては、自転車の車両としての意識の希薄化を助長するのではないかとの指摘もあるところであり、歩道における徐行や車道における左側通行といった原則的なルールについて周知し指導を徹底することについては、関係当局の一層の努力が望まれる。

ウ上記のほか、「4歩行者などに対する注意」では、「自転車を駐車するときは、歩行者や車の通行の妨げにならないようにしなければなりません。」としているが、現実には、自転車が歩道上に駐車して歩行者の通行の妨げとなったり、普通自転車通行指定部分での駐車により他の自転車の通行の妨げともなっている状況が見られる。
自転車利用者に対しては駐車についてもルールを遵守するよう徹底が求められるとともに、歩道上で歩行者や自転車の通行の妨げとなる放置駐車自転車等の撤去等について関係当局の一層の努力が望まれる。

(2)歩行者に関し周知すべき事項(教則第2章「歩行者の心得)」

教則第2章第2節「歩行者の通るところ」では、歩行者の心得として、歩道のある道路では原則として歩道を通行すべきこと等が示されている。
歩道は歩行者が通行する場所として基本的に整備されているものであるが、一定の場合には普通自転車が通行できることとされていることも踏まえ、歩道において歩行者も自転車と適切に共存するという意識が必要であると考えられる。特に法改正により、歩道で普通自転車の通行部分が指定されている場合には、歩行者に当該部分をできるだけ避けて通行するよう努力義務が課されたことから、教則においても、

○歩道に普通自転車通行指定部分があるときは、その部分はできるだけ通行しないようにすべきこと

を示す必要がある。
このほか、歩行者の通行実態を踏まえ、歩行者自身の安全確保の観点からも、歩行者に対して、

○自転車道や自転車横断帯には、立ち入らないようにすべきこと
○自転車道を横断する場合等には、自転車が近づいていないかどうか確認すべきこと
○自転車歩道通行可とされている歩道等では、自転車が車道寄りを通行すること及び前後両方向から通行してくることを認識すること

等を周知すべきと考えられる。
なお、歩道では歩行者の安全を優先すべきことは当然のことであるので、歩行者の歩道における通行が不当に制限されることのないよう、自転車の運転者に対し、歩道では歩行者優先が原則であることや徐行義務等の基本的なルールを徹底すべきことは繰り返すまでもないところである。

(3)自動車の運転者に関し周知すべき事項(教則第5章「自動車の運転の方法)」

教則第5章では、一般的な自動車の運転の方法や運転上の禁止・注意事項等が示されている。

ア教則第5章において、自転車の安全に関する事項としては、第3節「歩行者の保護など」の「2歩行者が横断しているときなど」で、自転車横断帯付近での禁止・注意事項が示されているなどのほかは、明示的には示されていない。
自動車と自転車との事故が多発していることや車道を通行する自転車に対する自動車運転者の配慮の意識が不足していると見られる現状等を考慮すれば、自動車運転者に対し、車道において自転車と適切に共存するという意識付けを図り、自転車の安全への配慮を徹底することが強く求められるところである。
したがって、教則第5章においても、新たに項を設けて、自動車の運転者が自転車の安全に関し注意・配慮すべき事項について示すことが適当と考えられる。
特に、自転車と自動車との事故実態等を踏まえ、

○自転車は車両の一種であり、原則として車道を通行することとされているので、車道を通行する自転車に十分注意すべきこと及び自転車は不安定であり、身体を防護する機能がないなどの特徴があるので、自転車の安全に十分配慮すべきこと
○ドアを開けるときは、側方を通過する自転車がないか、後方の安全を確認すべきこと
○自転車を追い越し、その他自転車のそばを通るときは、自転車のふらつき等を予想し、自転車との間に安全な間隔をあけるか、徐行しなければならないこと
○道路に面した場所に出入りするなどのため歩道や自転車道を横断しようとするときは、一時停止し、近くに歩行者や自転車がないか安全を確認すべきこと
○交差点では、交差道路を通行する自転車との衝突や左折時の自転車の巻き込み等に十分注意すべきこと
○交差点等では、自転車の運転者とできるだけアイ・コンタクトをとるようにして通行すべきこと
○交通整理の行われていない交差点では、特に、一方通行の逆方向から進入してくる自転車を見落としやすいので注意すべきこと
○交通整理の行われている交差点であっても、特に、歩道から進入してくる自転車を見落としやすいので注意すべきこと

等について、教則に示し、又は自動車運転者に対する広報啓発資料等に反映することが適当と考えられる。

イ上記のとおり、自動車が自転車の追い越し等を行う場合には、自転車との間に安全な間隔をあけるか、徐行すべきであるが、この場合の「安全な間隔」の目安については、運転免許の技能試験において、歩行者又は軽車両の側方を通過する場合に「歩行者又は軽車両が(当該車両を)認知していることが明らかな場合は概ね1メートル以上、認知していないおそれがある場合は概ね1.5メートル以上」の間隔を保っていない受験者は「安全間隔不保持」として減点の対象とされている(徐行した場合を除く)ところである。この安全な間隔の基準は、自転車のふらつきや転倒等を考慮しても概ね妥当と考えられることから「自転車が自動車を認識している場合は概ね1メートル以上、認識して、いないおそれがある場合は概ね1.5メートル以上」を目安として自転車との間隔をあけるよう周知することが適当と考えられる。

3自転車の通行方法等に関するルールの普及方策について

2では、現行の教則をベースとして、今後自転車の通行方法等に関し国民に「何を周知すべきか」について指摘したところであり、これを踏まえ教則の見直しが適切に行われるとともに、教則で示されない事項については自転車に関する各種の広報啓発・安全教育資料に適切に反映されることが期待される。
ただし、国民への周知徹底の実効を期する観点からは、これに加えて「如何に周知すべきか」が重要であり、この観点からは以下の点が望まれる。

(1)具体的で分かりやすい資料の作成

教則では、自転車の通行方法や自転車に関する推奨・注意事項等が文章で示されているが、これを国民に普及するに当たっては、図表やビデオ、DVD等を用いて、より分かりやすく伝える努力が必要である。特に、交差点の通行方法や信号の意味等については、文章では容易に理解しにくい面があり、例えば、信号機のある交差点で右折する場合に止まって向きを変えるべき場所等を含め、視覚的に理解が得られるよう努めるべきと考えられる。
また、現在、自動車安全運転センターにおいて、自動車と自転車の事故の詳細な分析や事故実態を踏まえた実証実験等を行っているところであるが、こうした、調査研究が集積され実証的なデータが広報・教育資料に活用されることにより、更に国民の理解が深められることが期待されるところである。

(2)関係機関等の連携による広範な普及

教則の内容を踏まえた交通ルールの周知については、自動車の運転者に対しては運転免許の更新時講習において定期的に行われるところであるが、自転車利用者についてはこのような機会が制度的には確保されていない。
自転車の通行方法等に関するルールを国民に普及浸透させるためには、警察のほか関係各機関が連携して、更新時講習や警察が行う各種交通安全教育、学校教育、自転車の販売・修理等を始めとするあらゆる機会に適切な広報啓発・安全教育資料を配付するなどして、ルール周知の機会を更に拡大することが望まれる。
また、ルールの周知・指導に当たっては、その効果が上がるよう、地域の実情等も踏まえ、対象の年代等に応じた手法・内容に配意すべきであり、特に学校では、子供の発達段階に応じた内容の自転車安全教育を、繰り返し継続して実施する必要がある。
なお、自転車の通行方法等については、運転者が道路交通の現場において確認し理解できるよう、できる限り、立看板等により示すことにも配意すべきである。

おわりに

「自転車の交通秩序整序化」に向けた警察の取組みは、まだ緒についた段階であると考えられる。当懇談会の検討結果が自転車の通行方法等に関する国民の理解の浸透に寄与することを期待するところであるが、こうしたルールの周知の取組みのみならず、自転車の法令違反に対する警察の適切な指導取締りや、道路管理者と警察が連携した自転車の通行環境整備の取組みが合わせて進められなければ、国民のルール遵守の実効性は期待できないと考えられる。逆に、例えば、自転車道や車道における自転車の専用通行空間等自転車が安全に通行できる環境が整備されることにより、ルールの遵守がより一層促されると考えられる。
平成20年には、改正道路交通法の規定が施行される予定であり、これを絶好の機会として、またその後も、関係当局における着実な取組みが進められることにより、「自転車の交通秩序の整序化」ができる限り早期に実現されるよう期待するものである。

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