自転車社会学会

基本政策部会における議論の方向についての試案

平成14年3月5日
中村英夫

■現状認識〜道路行政転換の機会〜

戦後、国道さえも舗装されていないような劣悪な状態からスタートした日本の道路は、およそ半世紀にわたり精力的に整備が進められてきた。この間の道路行政の基本的な姿勢は、「欧米先進国の水準へのキャッチアップ」であり、道路の水準はきわめて不十分であるという認識のもとに「量的拡大」を至上命題としてきた。

今日の道路整備水準を見ると、多くの都市部における慢性的な交通渋滞や、年間死者約9,000名にも達する交通事故、高速道路ネットワークの地域格差、電線や看板などによる沿道美観の欠如など、確かに不十分な部分も少なからず存在するものの、道路の量的ストックはある程度の水準にまで形成されたと言える。そのため、初期においては、道路整備を熱心に望んだ国民も、現在では、地域によってはこれを必ずしも歓迎するものとはならなくなっている。すなわち、道路ストックの増大とともに道路整備の限界効果は大きく減少したのである。

加えて、バブル経済の崩壊を経て経済の低迷が続き、少子高齢化の急速な進展、地球規模の環境問題などとあいまって、道路への投資環境の大きな変化が進み、道路行政を取りまく経済社会情勢も大きな転換期にあると言わねばならない。

この際、日本の道路行政は、「一定の量的ストックは満たされた」ことを認め、これまでの「量的拡大」路線から、必要性の高いものとそうでないものを峻別して、無駄なく投資し、あわせて既に形成されたストックを改良して質的向上を図り、有効活用する姿勢に転換すべきであると考える。

昨今、有料道路制度、道路特定財源制度、特殊法人民営化など、戦後の道路整備を支えてきたシステムや制度の改革が強く要請されているが、これは道路行政が時代の要請に十分対応できていないがために生じた利用者や国民と道路政策の間の意識のギャップに起因するとも言える。

換言すれば、現在では、既存の道路政策の存続が限界に達していることを意味しており、国民と道路行政のギャップが90年代以降急速に目立つようになってきたことを省みれば、道路行政は既に時代の変化に遅れをとっているともいえよう。

近年、世に出された英国の交通白書「A New Deal for Transport Better for Everyone」や、ドイツ交通住宅省の年次交通報告「Verkehrsbericht2000:モビリティーの高い未来への構想」でも、このような転換の方向が極めて明確に示されている。

道路行政は他の公共事業部門に先駆け、政策や組織、制度の面で戦後の社会資本整備をリードしてきたと言って良い。今こそ、道路行政が再び効率的な公共事業への大転換を先導する役割を果たすことを期待したい。本部会では、現在の道路行政を取りまく情勢を、今後にわたる「道路行政転換の契機」ととらえ、従来の政策の善きものは残し、改めるべきものは改め、今後へ向けて建設的に道路行政のあり方を審議すべきと考える。

■新たな道路行政の方向性〜選別投資、改良と活用への転換〜

言うまでもなく、道路は最も基本的でかつ大規模に広がるインフラストラクチャーであり、国民の厚生を確保する基盤である。したがって、国民生活の向上のために必要な道路整備は十分に進められなければならない。同時に、これは国民の貴重な共有財産であり、これを有効かつ適切に活用することは、今後の我が国の経済活力や生活の質の向上に枢要な影響を持っている。このような認識に立ち、この機会を逃すことなく衆知を集めて、道路行政の転換の新たな方向を見出すよう検討すべきである。

このような視座に立って、本基本政策部会の議論を、徹底した情報公開のもとに、次のような方向に展開していくことが必要であると考える。

1.「量的拡大」重視から、既存のストックの改善と活用を最大限に考慮した「峻別した新規投資と既存施設の有効活用」へ
2.市街地において「車中心」の施策から、自動車利用抑制、生活道路の復権、沿道環境・地球環境の改善も考慮した「歩行者・自転車など生活者重視」の施策へ
3.「道路単独主義」から、鉄道等他の公共交通機関との適切な役割分担を考慮した「インターモーダルな総合的交通システム」の構築へ
4.「全国一律の"均衡ある発展"」から「地域ブロックを主体とした個性ある地域づくり」の支援へ
5.「事業量確保のための事前評価システム」から「成果を重視する評価システム」へ
6.環境改善、物流効率化、モビリティの向上等の観点に立って、料金を変えるなどの「弾力的な料金政策の導入」へ

(6つの議論の方向の私的解説へ)

以上述べたように、過去の経緯にとらわれることなく、道路政策の最終目的たる国民福祉の向上に立ち返って、今後の道路行政の進むべき方向を検討すべきと考える。部会のメンバーにとどまらず、各地域、各界・各層の方々から多くの意見をいただきながら、国民的に議論を進めていくよう、そのための仕組みを整えることが必要と考える。


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