自転車社会学会

自転車施策の課題
「自転車施策の課題」小林奉文(こばやしともゆき国立国会図書館行政法務調査室)レファレンス平成16年7月号
自転車と関連する施策の最近の動向
1自動車交通問題

自動車交通については、都市交通問題の視点からの論議や脱クルマ社会の視点からの論議がなされ、その中で、自転車に係る課題についても併せて論議されている。

(1)交通需要マネジメント
都市化とモータリゼーションの進展により、都市の自動車交通量は著しく増大しているが、道路等の整備がそれ対応できておらず、交通渋滞、交通事故、交通による環境破壊(大気汚染、騒音等)、公共交通機関(バス等)の衰退及び中心市街地の衰退の問題が発生している。我が国では、従来は自動車交通需要に応じて道路等を整備することで対処してきたが、90年代に入って、道路新築等は事実上困難であり、交通需要追随型の対策のみでは限界があると考えられ、新たな施策に注目が集まった。交通需要マネジメント(Transportation Demand Management、TDM)施策(42.)である。TDMの意義は必ずしも明確ではないが、国土交通省(43.)によれば、「車の利用者の交通行動の変更を促すことにより、都市や地域レベルの道路交通混雑を緩和する手法」であり、その事例として、時間の変更(時差通勤)、経路の変更(通勤ルートの変更)、共同集配、交通情報の提供、手段の変更(パーク&バスライド)、バスの利用促進とバスレーンの工夫、自転車利用の促進及び大量公共輸送機関の連結促進などがあげられている。

TDMは、道路審議会建議「『ゆとり社会』のための道づくり」(平成4年6月)において取り上げられ、円滑なモビリティの確保の項で、交通容量の拡大とともに「利用者の交通ニーズを尊重しながら、自動車交通の円滑化を図ることを目的として、交通需要マネジメント施策を推進する。」とされた。横島庄治教授(44.)は、@クルマ社会は、事故による犠牲、渋滞によるロス、環境破壊で限界に達した、A「TDM=クルマの需要抑制」は今後避けられない、Bその時、都市内交通手段として自転車の果たす役割は予想以上に大きいとしたうえで、現実の問題として自転車が重要な都市内交通手段として認知されているとは思えないが、海外の流れに呼応して、ようやく日本でも自転車再評価の意識が高まり始めているとしている。太田勝敏教授(45.)は、TDMによる都市交通の適正化については、供給サイドの課題のなかで、代替交通手段の改善として、歩行者・自転車・公共交通の問題が重要であるとしている。
そして、TDMの考え方を取り込んだ都市交通適正化施策(46.)が提唱されている。円滑・快適な都市交通を実現するために、交通需要管理(適切な手段への誘導・交通需要の効率化・適切な自動車利用の誘導等)・交通負荷の小さい都市づくり(都市構造の改編・交通施設に対応した都市開発)・交通容量の拡大(道路施設の整備・交通運用の改善)を推進しようとするものであり、基本は、施設整備と都市交通適正化施策をバランスさせながら、都市交通問題を解決していこうとする点にある。適切な手段への誘導の項で、「自転車の利用促進」があげられている。

42.TDMは、80年代にアメリカで提唱され、80年代後半以降欧米諸国で実施されている。太田勝敏他『交通計画集成1交通需要マネジメントの方策と展開』前掲注等参照。
43.国土交通省道路局<http://www.mlit.go.jp/road/sisaku/tdm/TOP_PAGE.html>なお、長期構想研究会『新長期構想の本NEXTWAY』道路広報センター,1992参照。
44.横島庄治「脱クルマと自転車活用」『新地方自治の論点106』時事通信社2002,p.266.
45.太田勝敏他『交通計画集成1交通需要マネジメントの方策と展開』前掲注p.28、太田勝敏「持続可能な交通と車社会の展望」『東京大学公開講座68車』東京大学出版,1999,p.53.
46.都市交通適正化研究会(監修・建設省都市局都市交通調査室)「都市交通問題の処方箋」大成出版社,1995,p.9.
(2)総合的な交通施策
交通システム全体の観点から、交通政策の転換を図ろうとする動向がある。運輸政策審議会の「『21世紀初頭における総合的な交通施策の基本的方向について』―経済社会の変革を促すモビリティの革新―(答申)」(平成12年10月)は、自動車の利用には、環境問題・交通事故・道路交通渋滞といった負の面があり、これまでは負の側面に対し根本的な対策がなされないままに自動車の利用が進んできたが、生活の豊かさを重視する時代には、負の側面の是正策を果敢に講じることにより、安心感がある新しい交通システムを実現することが必要であるとして、「クルマ社会からの脱皮」を提言している。答申は、重点課題に関する考え方の「都市と交通の改造」の項で、自動車に過度に依存しない都市と交通を実現する必要があるとして、提言の一項目として、公共交通や徒歩・自転車交通への転換(幅の広く障害物の少ない歩道・自転車道や駐輪場の整備による徒歩・自転車利用の促進等)をあげている。
なお、上岡直見氏は、「選ぶ脱クルマ」を提唱しており、脱クルマへの一つの道として、自転車をあげるとともに、「自転車は先進国の乗り物」の項で、日本では、交通機関としてはあまり積極的な評価を与えられていないとしている(47.)。

47.上岡直見『脱クルマ入門』北斗出版,1998,p.136。白石忠夫『世界は脱クルマ社会へ』緑風出版2000、角橋徹也編『脱クルマ社会―道路公害対策のすべて』自治体研究社,1994等参照。
(3)第5次全国総合開発計画(平成10年3月31日閣議決定)
全国総合開発計画「21世紀の国土のグランドデザイン―地域の自立の促進と美しい国土の創造―」は、自立の促進と誇りの持てる地域の創造、国土の安全と暮らしの安心の確立、活力ある経済社会の構築等の課題に総合的に取り組むとし、自転車の利用促進等のマルチモーダル施策の推進とネットワーク化された歩道、自転車道及び自転車駐車場の整備等を掲げている。
2道路整備

(1)「21世紀に向けた新たな道路構造のあり方」
道路審議会は、平成4年の建議「『ゆとり社会』のための道づくり」を踏まえて、平成6年11月に、「21世紀に向けた新たな道路構造のあり方―新時代の"道の姿"を求めて―」を答申した。答申は、@自転車と歩行者が分離されておらず危険、A自転車道は、車道の付帯施設として認識されたため、独自の連続したネットワークが形成されていない、B自転車の通行は、車道上では自動車からの危険が多く、歩行者の多い歩道上では自転車の通行と歩行の障害となっている、C放置自転車が増加し、歩行者や自転車の交通を阻害し、さらに都市景観を悪化させているなどとして、道路網体系を再編成し、主として地区の交通が利用する道路については、自動車よりもむしろ歩行者や自転車が安心して通行できることが重要であるとした上で、自転車空間の整備として、@歩行者と自転車の分離、A駐輪場の計画的な整備の推進をあげている。歩行者と自転車の分離については、@自転車のための空間は、自動車と分離するとともに、歩行者とも分離したネットワークとすることが望ましい、A都市内空間の制約から、自転車と歩行者の通行を前提とした幅の広い自転車歩行者道を整備することはやむを得ないが、歩行者と自転車がともに多い場合や、歩行者が少なくても自転車が多い場合には、歩行者空間と自転車空間を極力分離する必要があると提言している。

(2)「今、転換のとき〜よりよい暮らし・経済・環境のために〜」
社会資本整備審議会(48.)道路分科会基本政策部会の中間報告「今、転換のとき〜よりよい暮らし・経済・環境のために〜」(平成14年8月)は、「これまでは主に渋滞解消など自動車交通への対応に重点を置いてきたが、都市部の生活道路や住宅密集地の歩道整備など、地域によっては歩行者や自転車などを優先し、沿道と一体となった生活空間として捉えた道路の整備・利用を求める声も強く、国民のニーズにきめ細かく対応した道路行政を展開する必要がある。」として、@歩行者・自転車を重視し、生活環境改善に資する道路整備の推進、A町中心部の賑わいを創出するため、歩行者や自転車の安全かつ快適な移動空間を確保することなどを提言している。

48.社会資本整備審議会都市計画・歴史的風土分科会都市計画部会都市交通・市街地整備小委員会「良好な市街地及び便利で快適な都市交通をいかに実現・運営すべきか」(平成15年4月14日)p.24参照。
3交通安全

(1)交通安全教育指針
交通安全教育についての全国共通の考え方が確立していないことから、平成11年に交通安全教育指針が作成され、その中で、児童、中学生等毎に、自転車利用者の心得が記述されている。成人については、自動車に関する事項が大半で、自転車関連事項は極めて少ない。

(2)交通安全基本計画等
「第7次交通安全基本計画」(平成13〜17年度・平成13年3月)は、自転車関係についてより政策面での強化を打ち出している。適切に機能分担された道路網の整備の項の表現を、「自動車、自転車、歩行者等の異種交通を分離し、…特に自転車・歩行者専用道路等の整備を積極的に推進する」とするとともに、「その他の道路交通環境の整備」の中の「自転車等駐車対策の推進」の項を「自転車利用環境の総合的整備」の項に改め、その内容を充実させている。「都市構造に応じた都市交通としての自転車の役割と位置付けを明確にしつつ、自転車を歩行者、自動車と並ぶ交通手段の一つとして、安全かつ円滑に利用できる自転車空間をネットワークとして整備する等、総合的な自転車利用環境を整備する必要がある。」として、「自転車や歩行者、自動車の交通量に応じて歩行者、自動車とも分離された自転車道及び自転車専用道、自転車が走行可能な幅の広い歩道である自転車歩行者道等を整備するとともに、自転車専用通行帯、普通自転車の歩道通行部分の指定等の交通規制を実施する。」との施策が追加された。放置自転車中心の自転車対策から一歩前進した。「道路交通法その他の法令に定める正しい走行方法、正しい駐車方法について、道路上で明確に理解できるよう走行区分の明確化等の整備を推進する。」との事項も追加された。放置自転車については、交通バリアーフリー法の視点からの対策が追加された。

「平成16年度国家公安委員会・警察庁交通安全業務計画」(平成16年3月)は、従来の自転車利用者の違反行為に対する警告等の方針を改め、「特に、自転車利用者による無灯火、二人乗り、信号無視、一時不停止及び歩道通行者に危険を及ぼす違反等に対して積極的に指導警告を行うとともに、これに従わない悪質・危険な自転車利用者に対する検挙措置を推進する。」として、検挙措置をも視野に入れる方針を示した。

(3)あんしん歩行エリアの整備等−社会資本整備重点計画(平成15年10月10日閣議決定)
社会資本整備重点計画は、交通安全施設等整備事業として、あんしん歩行エリアの整備(歩行者等の事故多発地区における歩行者・自転車安全対策の重点実施)と安全・快適な歩行者通行及び自転車利用環境の整備(歩道、自転車道等の通行空間と自転車駐車場の整備推進)を取り上げている。あんしん歩行エリアの整備(49.)においては、歩行者と自転車を分離せず、一括して交通弱者としての対策を講じようとしているようである。なお、計画は、歩行空間のバリアーフリー化の推進として、放置自転車対策としての自転車駐車場の整備を取り上げている。

49.「社会資本整備重点計画」、警察庁交通局・国土交通省道路局「『あんしん歩行エリア』及び『事故危険個所』を指定」(平成15年7月10日)等参照。
4地球環境―持続可能な交通

1990年代に入り、地球温暖化問題が国際的な課題となった。1992年の地球環境サミットで、環境と開発に関するリオ宣言がなされ、気候変動に関する国際連合枠組条約が採択された。
1997年には気候変動に関する国際連合枠組条約第3回締約国会議が開催され、京都議定書が採択された。そのような中で、自転車を再評価する動きがある。主要な施策(50.)について概観するが、自転車はごく簡単に触れられているにすぎず、具体策はほとんど記載されていない。

(1)環境基本計画(平成6年12月16日地球温暖化対策推進本部決定)
環境基本計画では、自転車関係として、@自動車排ガス対策として、公共交通機関の整備・利便性の向上、徒歩や自転車利用のため
の施設整備により人流対策をすすめる、A消費者は、徒歩、自転車、公共交通機関等環境への負荷の少ない交通手段の選択に務める、国等は徒歩や自転車利用のための施設整備を進めるなどとしている。

(2)地球温暖化対策推進大綱(平成10年6月19日閣議決定)
地球温暖化対策推進要綱は、京都議定書で我が国が約束した温室効果ガスの排出量6%削減に向けた対策を決定した。対策の一つとして、国民の生活様式(ライフスタイル)の見直しの項で、夏時間の導入についての国民的議論の展開などとともに、自転車の安全かつ適正な利用の促進に向けた環境整備(自転車利用に配意した道路・自転車駐車場等の整備、鉄道車両への自転車持込み等、市町村の自転車駐車対策の総合計画の策定)をあげている。また、政府の率先実行として、霞ヶ関における自転車の共同利用(51.)を積極的に導入するなどとしている。

50.この他、「当面の地球温暖化対策の検討について」(平成2年6月18日地球環境保全に関する関係閣僚会議申合せ)、「地球温暖化防止行動計画」(平成2年10月2日地球環境保全に関する関係閣僚会議決定)、「国の事業者・消費者としての環境保全に向けた取組の率先実行のための行動計画について」(平成7年6月13日閣議決定)、「総合的なエネルギー需要抑制対策を中心とした地球温暖化対策の基本的方向について―環境負荷の小さな社会の構築を目指して―」(平成9年11月地球温暖化問題への国内対策に関する関係審議会合同会議)、「今後の地球温暖化防止対策の在り方について(中間答申)」(平成10年3月中央環境審議会)、「地球温暖化対策に関する基本方針」(平成11年4月9日閣議決定)等参照。
51.「霞ヶ関地域の本省庁等における自転車の導入利用の実施について」(平成11年1月29日)

(3)地球温暖化防止のための今後の道路政策について―未来へ引き継ぐ環境のための政策転換―(平成11年11月29日道路審議会)
道路審議会は、地球温暖化防止の取組が急務であるとして、需要に対応したインフラ整備という考えを超えて、「地球環境への負荷の少ない道路利用への転換とよりよい環境創出を目指して道路政策を展開していかなければならない」として、@短距離移動(1km未満)の徒歩への転換の促進、A都市内の交通モードとしての自転車への転換の促進、B公共交通機関の利用促進等をあげている。自転車については、@自動車の移動のうち、自転車でも可能な5km未満が半分を占めていることから、自転車の有用性を生かすこと、A自転車道等をネットワークとして重点的に整備することと駐輪場を整備することにより、自転車への転換を促進することが必要であるして、都市における自転車利用のための環境整備の全国的展開を提言している。

(4)環境基本計画(平成12年12月22日閣議決定)
環境政策が順調に進展していないことや環境問題をめぐる状況の変化に対応して、新たな環境基本計画が策定された。自転車(52.)に関しては、@自動車環境対策全体の方向性の項で、徒歩や自転車利用のための安全かつ快適な交通環境や施設の整備、A地球温暖化対策としての生活様式の見直しの項で、「近距離移動への徒歩あるいは自転車の利用促進」、B主体別の役割の項で、消費者の役割として「徒歩、自転車、公共交通機関など環境への負荷の少ない交通手段の選択に努めます。」などとされている。

52.「地球温暖化対策検討チーム報告書」(平成12年6月中央環境審議会企画政策部会地球温暖化対策検討チームp.13)は、「自転車利用の促進は、自動車交通量を抑制し、化石エネルギーの消費を減らすなど、運輸部門の排出量の削減を図る上で効果的である。現在、自転車歩行者道や自転車駐車場の整備、自転車利用を促進するモデル事業や町づくり計画の策定などの施策を実施されているものの十分とは言えず、今後取組の一層の強化が必要である。」とし、さらに、自転車等を公共レンタカーとして貸し出す簡易な仕組みの導入に期待するとしている。

(5)地球温暖化対策推進大綱(平成14年3月19日地球温暖化対策推進本部)
京都議定書の目標を達成するのためには、今後一層の対策を進める必要があるとして、推進要綱が見直されたが、自転車に関しての新規事項はない。
5健康―健康的な乗り物

総務庁(当時)の「自転車の安全かつ適正な利用の促進に関するアンケート調査」(平成11年6月)によれば、自転車を利用する理由として、30.9%の人が「健康に良い」ことをあげている(53.)。自転車運動(54.)は、有酸素運動であり、体脂肪量の減少と基礎代謝量の増加につながり、さらには、心肺機能を高め、新陳代謝も促進されるとされている。生活習慣病対策として、医師等が推奨する運動療法の一つとされている。
運動しなくなった生活様式(自動車中心の生活や自動化・機械化された社会)にかんがみて、厚生省(当時)の「生涯を通じた健康づくりのための身体活動のあり方検討会報告書」(平成9年3月)は、健康づくりのための年齢・対象別身体活動指針で、高齢期を除き、各年代で自転車(サイクリング)の運動をあげている。「健康日本21」では、直接自転車による運動をあげてはいないが、健康日本21企画検討会報告書(平成12年2月)は、社会環境対策として、自転車道等の環境整備について論及している。

53.自転車産業振興会『自転車のニーズ調査報告書』前掲注参照。
54.前田寛他『自転車と健康』東京電機大学出版局,1999,p.100.
6歩いて暮らせる街づくり構想等

経済新生対策(経済対策閣僚会議平成11年11月11日)において、「歩いて暮らせる街づくり」構想(少子・高齢社会にふさわしい安全・安心でゆとりある暮らしを実現するためには、通常の生活者が暮らしに必要な用を足せる施設が混在する街、自宅から街中まで連続したバリアフリー空間が確保された夜間も明るく安全な歩行者、自転車中心の街、幅広い世代からなる街、住民主役の永続性ある街づくり)を推進することとされ、松山市等20地区がモデルプロジェクト地区として平成12年3月に選定された。松山市は、「歩いて暮らせる生活都心の創造」をテーマに、「歩行者・自転車のネットワーク空間の確保とそれを支える交通システムの確立」等のプロジェクトを推進している。このプロジェクトは、平成14年6月に国土交通省道路局の平成14年度社会実験実施地域(55.)として指定され、さらに、平成15年11月に「松山市歩いて暮らせるまちづくり交通特区」が構造改革特別区域計画(56.)の認定を受けた。また、中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する基本的な方針(平成10年7月31日通商産業省等共同告示)は、「モータリゼーションの進展への対応の遅れ、商業を取り巻く環境変化等から、中心市街地の空洞化が進みつつある。」として、中心市街地の活性化に向けて方針を定めており、そのなかの事業内容の一つとして、自転車駐車場等の整備事業をあげている。なお、社会整備審議会道路分科会基本政策部会の中間報告(平成14年8月2日)も、まちの中心部の賑わいを創出するための施策について提言している。

55.社会実験の施策としては、道路空間の使い方(「自転車から始まるエコ高松」等)、物流・駐車対策(「自転車走行空間創出のための路上荷捌きの路外転換実験」)、自転車利用環境の向上(「通勤レンタサイクルシステムと中心市街地活性化の社会実験」等)、自転車の共同利用(「海老名エコパークアンドライド社会実験」等)、自転車利用の促進(「歩行者系と自転車系のリンゲージモデルの創出」等)等がある(http://www.mlit.go.jp/road/demopro/result/seisaku.html.)。
56.松山市の計画は、「…歩行者・自転車の利便性の高い、職住近接の歩いて暮らせるまちづくりの実現が図られ、中心市街地の活性化と人口回帰がもたらされる。」としている。
7諸外国における自転車施策の動向

欧米諸国は70年代から自転車施策を実施しており、我が国より数歩進んでいる。自転車利用者の評価は、4グループに分けられる(57.)。評価順に、Aグループがデンマーク・オランダ、Bグループがイタリア・スエーデン、Cグループがオーストリア・西ドイツ(当時)・スイス、Dグループがイギリス・ベルギー・フランス・スペインである。アメリカはクルマ王国であるが、自転車施策が早くから講じられている。最も進んでいる国としてオランダ、遅れている国としてイギリス、クルマ王国としてのアメリカの三カ国の自転車施策(58.)を概観してみる。

57.オリバー・ハッチ「基調報告欧州の自転車事情とその政策」『国際シンポジウム都市生活と自転車』朝日新聞社1991,p.43、渡辺千賀恵『自転車とまちづくり』前掲注p.116.
58.諸外国の自転車対策については、交通安全総合ネットワーク(CrossRoad)の「海外の自転車対策」にその一覧がアップされている(<http://www.cross-road.gr.jp/top.php>内閣府政策統括官(総合企画調整担当)付交通安全対策が管理運営)。古倉宗治「欧米自転車先進諸国の自転車政策について(1〜23)」『自転車・バイク駐車場』2002.5〜2004.3、「欧州自転車政策実態調査」『自転車対策研究』13号,1998等参照。
(1)オランダの自転車施策(59.)―「自転車マスタープラン」
オランダは、最も自転車施策の進んだ国であり、「自転車の国」といわれている。オランダの自転車保有状況は、2002年で1780万台で、0.9人が一台を保有しており、常時自転車を利用している者は65.8%(1991年)で、欧州では群を抜いている。自転車交通は自動車交通より優先されると考えている人が、86.6%にのぼっている。自転車利用の移動が29%、距離にして9%となっている。自転車道は約15,000kmで、そのうち4分の1が他の道路交通から分離されている。市民の移動の60%が5km以下で、自動車利用の40%が5km以内となっていることから、自転車が自動車利用抑制のための代替手段と考えられる素地がある。

オランダは、自動車交通に起因する大気汚染、交通渋滞等に対処するために、1990年に「第二次交通・輸送基本計画」を策定した。計画は、持続可能な社会の建設を目指して、目標の一つとして、2010年までに1986年対比で70%増加の見込まれる自動車利用を35%に抑制することを掲げ、5〜10kmの距離については自転車を、10km以上については自転車と公共交通機関の組合せ利用を奨励している。そして、1991年に「自転車マスタープラン」が策定され、自転車利用促進が国の基本政策であることが示された。

プランでは、@2010年に自転車走行距離を35億km(1986年比で30%増)とすること、A施設整備により自転車の街中心施設等までの所要時間を20%減とすること、B5kmまでの自転車移動時間を自動車以下又は同等とすること、C1995年には50人以上の企業・団体に自転車を含む交通計画を策定させること、D2010年までに自転車通勤を50%増(1986年比)とすること、E自転車と公共交通機関の連結を改善し、鉄道利用者を2010年までに15%増(1990年比)とすることとともに、交通事故・盗難の減少を目標としている。そのため、@良質な自転車道とそのネットワークを構築すること、A交差点改良、自転車用橋等による近道の設定等により自転車交通流を改善すること、B建築基準として自転車施設の設置を含めること、C自転車利用手当の改善、D自転車と公共交通機関の乗り継ぎの改善、鉄道駅やバス停に近い自転車置き場の設置、鉄道への自転車の持込みや鉄道駅でのレンタル自転車利用を高めることなどを求めている。また、プランは、不利な点として、@交通事故の確率が高いこと、A不十分な照明、潅木の繁茂等により自転車道の安全性に問題があること、B自転車ルートの接続がないこと、自転車道の整備不良、標識の不備等、C適切な自転車置き場やラックが不足しており、盗難の危険が増加していることなどを指摘し、交通事故・盗難減少対策として、@異種交通の分離、分離できない場合には自動車速度の切下げ、細街路における速度規制・通行規制、地域における30km規制等、A安全で快適な自転車道の整備、B標識の改善、C自転車への所有者の住所等の記載、盗難防止装置等の講じられた自転車置き場の設置などを求めている。

アムステルダムを例に挙げると、自転車道の整備(車道を一方通行にしての自転車レーンの整備等)、トランジットモール(路面電車・自転車以外の交通乗り入れ禁止)、レンタサイクルシステム(ホワイトバイク)、鉄道・地下鉄への自転車持込み等の施策が講じられている。また、自転車と徒歩を交通手段の中心においたニュータウン「ハウテン」(60.)が建設されている。

オランダは、最も進んだ国であるが、さらに自転車利用を推進している。基本は、自転車を重要な交通手段として位置付けて、自動車運転者が自転車を頻繁に利用するようにするために、自転車をより魅力的にすることにある。安全な自転車道・交差点の整備とともに、自転車駐車場の整備・盗難防止・自転車構造の安全性の確保が必要であるとして、諸対策を講じている。

59.オランダ交通土木省『何はさておき、まず自転車』(全自連第1次欧州視察団訳)全自連1993、European Commission「Cycling:the way ahead for towns and cities」1999、新田保次他「オランダの自転車交通政策とサイクル都市『ハウテン』」『都市問題』83巻5号,1992.5p.53、交通と環境を考える会編『環境を考えたクルマ社会』技報堂出版,1995,p.111等
60.新田保次「自転車を中心にしたまちづくり」『まちづくりのための交通戦略』学芸出版社,2000,p.128.
(2)イギリスの自転車施策(61)―「全国自転車戦略」
イギリスでの自転車利用率は、トリップ数で2%以下であり、デンマークの18%等と比較して低い。自動車トリップ(1993/1995)の約58%が5マイル以下で、2マイル以下が約25%である。保有状況は、1998年で2300万台で、2.7人が1台を保有し、常時自転車を利用している者は13.6%であり、この面でも他の欧州各国に比較して低い。自転車盗難については、1993年の警察統計で約60万件(100人に6件)、暗数は3倍あるとされている。

イギリスは、1992年の地球環境サミットを受けて、「持続可能な開発―英国戦略(1994)」を策定し、その中で、「徒歩と自転車の可能性を最大限にする」とした。「計画政策指針ノート13:交通」(PPG131994)では、@徒歩・自転車・公共交通の利用を促進する開発形態をとること、A自転車利用者のための施設整備(自転車道路網の整備、公共交通の結節点での安全な駐輪場の供給等)が提案され、また、身体活動に関する政府戦略宣言(保健省1996)は、自転車を含む適度な身体活動の健康効果を強調している。

これらの動きの中で、1996年に、交通省、環境省、保健省等により「全国自転車戦略(National Cycling Strategy)」が策定された。この戦略は、自転車利用の増加を支援する文化等を確立することを目的としている。1996年の自転車トリップ数を2002年までに倍増、2012年までに4倍とすることを目標として、@自転車交通の安全性の改善、A自転車と公共交通を連結するために、安全な駐輪と自転車の運搬のための施設を確保すること、B道路空間を自転車に再配分すること、C自転車駐車場を主要な施設(中心街、商業施設等)に設置すること、D自転車のセキュリティを改善して、自転車盗難を減少すること、E自転車の評価を変えること(交通機関、雇用者等の自覚を促すこと、自転車の位置付けを向上させること、業務用トリップに自転車を利用すること等)などを講じることとしている。さらに、@道路管理において自転車が優先すること、A自転車は、道路容量の面で自家用車より効率的であること、B道路空間は、自家用車から自転車(多くの場合はバスと歩行者と関連させて)に再配分すべきことなどを提言し、地方機関に対しても自転車政策を策定するよう求めている。また、中心市街地の活性化のためにも施策を実施することを勧めている。

そして、「新交通政策」(62.)は、交通渋滞や大気汚染とたたかい、持続可能な発展を支援する輸送を確保するための施策を提示し、その中で、交通排ガスへの取組による大気清浄化、交通阻害要因の削減による中心市街地の活性化等とともに、徒歩と自転車利用をより容易で安全とすることが掲げられた。自転車については、全国自転車戦略の施策とその目標を支持し、特に地方機関に対して、@地方交通計画の一環として自転車利用のための地方戦略を確立すること、A現在の道路空間を自転車施設に配分すること、B安全な駐輪施設を増設すること、C自転車レーンを適切に維持すること等の施策を期待するとしている。

このような英国の自転車施策について、古倉宗治氏(63.)は、交通施策の中での自転車の位置付けがなされ、かつ、自転車の交通分担率の目標も具体的に掲げていると評価している。

61.「National cycling strategy」<http://www.dft.gov.uk/>、「Cycling in Great Britain」<http://www.dft.uk/>、古倉宗治「欧米の自転車政策について」『UrbanStudy』30巻,2002.1、太田勝敏他「英国(イングランド)の交通と土地利用に関する計画政策指針PPG13、PPG6(「環境負荷の小さい都市交通戦略」プロジェクト)『日交研シリーズC』37号,1998.9.
62.「ANewDealforTransport:Betterforeveryone」1998.7<http://www.dft.gov.uk/>(運輸省運輸政策局監訳『英国における新交通政策』運輸政策研究機構,1999)
63.古倉宗治「欧米自転車先進諸国の自転車政策について(その9)」『自転車バイク駐車場』277号,2003.1,p.18.
(3)アメリカ合衆国―「自転車安全向上国家戦略」
アメリカはクルマ大国であるが、1990年代に自転車対策を交通政策の中で取り上げるようになった。なお、1990年の自転車トリップ数は、全トリップ数の0.7%に過ぎない。連邦運輸省の報告書(64.)(1999.4.22)は、1990年に連邦ハイウエイ庁のラーソン長官が自転車と徒歩を「忘れられた交通手段」と述べたと記述するとともに、連邦運輸省が同年に新交通政策を採用し、その中で、@自転車利用を増進すること、A政策立案者・技術者に対して、都市・郊外地域の交通施設を計画するに当たっては、自転車と歩行者の需要に対応するよう奨励することを求め、自転車・歩行者を永年無視してきた時代は終わったと記述している。

この政策転換は、1991年11月の総合陸上交通効率化法(ISTEA法)において示された。同法は、アメリカの交通政策の転換を図ろうとするものであり、その中で、自転車と歩行者を全国交通ネットワークの交通手段の一つとして認め、自転車施設整備と教育のために連邦資金を投入することができるとされた。この法律は、従来限定的に認められていた自転車レーン等の整備への資金投入(65.)を大幅に拡大するものであり、さらに、各州は自転車歩行者コーディネーター職を設けることとされるとともに、連邦が補助する交通計画において自転車・歩行者は十分配慮されるべきことが要請された。1994年4月22日に議会に提出された国家自転車歩行者研究の最終報告書は、@自転車・歩行者のトリップ数を全トリップの7.9%から15.8%と二倍にすること、A自転車・歩行者の交通事故死傷者を10%減少することの二目標を掲げた。時限立法であったISTEA法(1992〜1997)は、1997年に21世紀交通均衡法(TEA-211998〜2003)に受け継がれ、補助率のアップ等自転車対策の内容が強化された。TEA-21においても、自転車・歩行者を計画・開発・建設において配慮しなければならないとされた(§1202ofTEA-21)。

2001年6月には、「自転車安全向上国家戦略」(66.)が発表された。この戦略は、連邦政府を含む自転車関係者が共同でまとめたものであり、毎年8000万人が自転車を利用しており、800人が死亡し、50万人が負傷していることなどから、自転車の移動性や安全性を確保しなければならないとして策定された。基調目標は、@自動車運転者に道路を共有させる(share the road)、A自転車利用者に安全運転させる、B自転車利用者にヘルメットを着用させる、C法制度により安全な自転車利用をサポートする、D自転車利用者に安全な道路・通路を供給することの5点である。特に、@道路を共有する項で、車両法を改正して、自転車に優先権を与えること、A自転車・歩行者施設に多額の資金が投入されてきたが、車道の設計は、自転車利用者のニーズを満たしておらず、道路技術者・設計者は、自転者利用者の権利・責任・ニーズ・選好を理解していないとして、その改善が必要であることなどを指摘している。

自転車施策の進んでいる都市としては、シアトル、ポートランド、デービス、マディソン等が紹介されている。2000年に自転車にやさしいコミュニティに選定されたデービス市(67.)では、自転車レーンの設置、交差点や交通管制システムでの自転車のための工夫、自転車駐車場の整備、自転車安全教育の推進、自転車ルート地図の発行、盗難対策の推進、警察の交通指導、サイクルバス等の施策を講じている。さらに、大都市であるニューヨーク市(68.)においても、1997年5月に自転車マスタープランを策定し、自転車対策を推進している。

このように、アメリカにおいても、交通体系の中で自転車を位置付けて、自転車に係る計画を策定し、自転車利用の促進と安全性確保のための総合的な施策(69.)を実施している。

64.the U.S.Department of Transportation 「National Bicycling and Walking Study Five Year Status Report」 <http://www.fhwa.dot.gov/events/earthday99/nbws5yr.pdf>
65.CRS Reportf or Congress 「RS20469:Bicycle and Pedestrian Transportation Policies」2000.2.
66.「NATIONAL STRATEGIES FOR ADVANCING BICYCLE SAFETY」 <http://www.nhtsa.dot.gov.people/injury/pedbimot/bike/bicycle_safety/main.html>、古倉宗治「欧米の自転車政策について(アメリカ合衆国「自転車安全向上国家戦略」2001.6)」『UrbanStudy』29巻2001.9.
67.City of Davis「City of Davis Comprehensive Bicycle Plan」2001.5.
68.New York City「NewYork City Bicycle Master Plan」1997.5.
69.アメリカの自転車施策については、「FHWA Course on Bicycle and Pedestrian Transportation」 <http://safety.fhwa.dot.gov/pedbike/univcourse/swtoc.htm>参照。
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