自転車社会学会

自転車施策の課題

「自転車施策の課題」小林奉文(こばやしともゆき国立国会図書館行政法務調査室)レファレンス平成16年7月号
。自転車施策の課題
エコ・エコノミー(環境的に持続可能な経済)を提唱しているレスター・ブラウン氏(70.)は、自動車中心型の都市は、悪化しつづける大気汚染、深刻な交通渋滞等とともに、運動不足による健康障害をもたらしているとして、「鉄道、自転車、歩道の組み合わせを基礎とする都市交通システムは、低コストの交通と健康的な都市環境をもたらすという意味で、考えうる最善の世界への道を開く。」としたうえで、「地域社会を再設計し、公共交通機関を都市交通の中心に据えて、その周辺に歩道、ジョギング用通路、自転車専用道などを整備することである。」と提案している。さらに、自転車には多数の利点がある、「交通混雑の緩和、汚染の削減、、肥満の軽減、健康の増進に役立ち、気候を撹乱する二酸化炭素を排出せず、さらに自動車を購入できない数十億の人々の購買力に合っている。」とし、自転車を自動車の代替手段として利用することを勧めるとともに(p.256)、自転車通路・自転車レーン・駐輪場の整備、職場のシャワー室の設置等により、自転車利用を促進することを提案している(p.258)。
ブラウン氏も指摘しているように、欧米各国では、自転車利用が見直され、自転車に関する総合施策が積極的に実施されている。しかし、我が国では、未だ総合的な自転車施策は打ち出されていない。今後の自転車施策の主要な課題について整理することとする。

70.レスター・ブラウン(北濃秋子訳)『レスター・ブラウンエコ・エコノミー』家の光協会,2002,p.255.

1自転車の交通手段としての評価―総合対策
我が国の自転車交通の現状と施策の実施状況を概観すると、いくつかの政策(前述「自転車と関連する施策」参照)において取り上げられてはいるが、多くは「自転車の利用促進」などと記述するにとどまり、具体的な政策提言はなされていない。そのような中で、国土交通省が新たな取組を始めている。国土交通省道路局の「21世紀の自転車利用環境の実現を目指して」(平成15年5月9日)は、自転車利用を取り巻く課題として、@安全快適な自転車走行空間の不足、A自転車走行方法のあいまいさ、B自転車に関連する事故の動向、C放置自転車問題の4点をあげ、道路管理の面での自転車施策を提示している。

自転車交通については、都市交通における位置付けが明確になされていないとの議論が多い。佐野祐二氏は、「一日も早く、自転車に正当な市民権を与える、ということが未来都市にとってぜひ欠くべからざる条件であろう。(71.)」としている。自転車活用推進研究会の「わが国の自転車政策のあり方に関する調査報告書2003〜「2025年、25%計画」の展開に向けて〜」(2003年3月)(以下「研究会報告書」という。)は、我が国には「自転車総合政策がない」、「現在の自転車行政は交通安全対策と放置自転車対策のみで、『活用推進』の視点が欠落した貧弱な行政である。」と酷評している。研究会報告書が指摘するように、国レベルでの総合施策は策定されておらず、特に「利用促進」についての施策は見当たらない。自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律は、国・地方公共団体の責務として、自転車の安全利用の促進と自転車等の駐車対策の総合的推進(§3)をあげているが、総合計画としては、市町村における自転車等の駐車対策に関する計画(§7)をあげているにすぎない。欧米諸国との比較して、我が国は特異な状況にあるといえよう。

山川助教授は、都市交通問題に対処するためには、自動車に代わり得る多様な交通手段を都市の中にどのように準備できるかという問題があり、「その中の一つとして、自転車を都市交通システムの中にどのように位置付けていくかということが大きなテーマになってくる(72.)」と指摘している。横島教授は、現実問題として自転車が重要な都市内交通手段として認知されているとはいえないとし、「地方自治体はこれまでのような放置自転車対策では足りなくなり、自転車利用促進型の都市政策に積極的に取り組まなければならなくなった。(73.)」と指摘している。

国の総合施策が不明確である一方、名古屋市(74.)は、「自転車利用環境整備基本計画」(平成13年9月)を策定している。放置自転車対策とともに、快適・安全な自転車利用環境を確保することを目的として、「都市交通としての自転車」の役割と位置付け、自転車利用促進の方針、自転車利用空間のネットワーク計画等を盛り込んでいる。「自転車は短・近距離の移動に適した交通手段であり、近・中距離の移動において、鉄道、バスなどの公共交通機関を補完する私的な交通手段」として都市交通の中で位置付けている。利用促進方策として、@自転車利用マップの作成、A公用自転車の導入促進、B企業等での自転車通勤・業務利用の促進、Cレンタサイクル導入などとともに、放置自転車のリサイクルシステムの利用促進をあげている。

研究会報告書は、自転車対策の抜本的見直しと自転車新法の立法を提言し、@自転車を環境・経済・健康に適した交通手段として明確に位置付け、自転車の利用促進を目的とした国レベルの総合計画を策定するよう義務づけること、A総合計画には、利用促進・走行環境整備・交通安全・放置対策を盛り込むこと、B自転車担当主務大臣を任命すること、C達成目標年次交通分担率を明記することなどを盛り込むことを提言している。

このような流れのなかで、渡辺教授は、自転車をまちづくりに活かす千載一遇のチャンスが到来したとした上で、現実問題として、放置自転車に振り回されている現場にはこれ以上自転車に増えて欲しくないとの気分があること、「自転車」の裏側には生活スタイルを脱クルマ社会に転換させる禁欲的な課題があること、自転車利用者のマナーが悪いことなどから、自転車利用をめぐって促進論と抑制論とが二重構造になっており、自転車を社会システムに組み込むことは必ずしも手軽ではなく、自転車利用についての国内各方面の合意づくりがまず必要であると指摘している(75.)。また、山中英生教授は、自転車に関わる課題は都市によって異なり、施策の目標も多様に変化しているとして、@利用の集中によって生じる弊害の除去を目標とする都市、A現在の自転車利用者の都市交通における役割を確保・保全することを目標とする都市、B自転車利用の増加を目標とする都市、C短距離トリップを自転車に転換させ、自動車交通の減少を目標とする都市の4類型を提示して、その都市類型に応じた施策をと
ることを提言している(76.)。

71.佐野祐二『自転車の文化史』文一総合出版,1985,p.401.
72.山川仁「自転車交通の役割と可能性」前掲注
73.横島庄治「脱クルマ社会と自転車活用」『新地方自治の論点106』時事通信社,2002,p.266.
74.名古屋市自転車利用環境整備のホームページ<http://www.city.nagoya.jp/13doboku/bicycle/index.htm>。なお、名古屋市においては、近距離通勤については自動車利用から自転車利用に転換するために、15km未満の自転車通勤手当を2倍とし、5km未満の自動車通勤手当を半額としている。
75.渡辺千賀恵『自転車とまちづくり』前掲注p.3(はしがき)・p.161.
76.山中英生「地区道路における自転車利用環境の課題と改善方向」『交通工学』36巻増刊号,2001,p.1.なお、「座談会新世紀の道路空間のあり方」『交通工学』36巻1号,2001.1,p.11.参照。

2自転車利用の安全性
(1)自転車走行空間―道路交通空間の再配分
自転車利用環境の整備に当たっては、都市内では、道路新設が困難であり、かつ、改築も制約されていることから、道路交通空間の再配分が重要な課題である。

国土交通省は、自転車利用環境整備のために、自転車道等の整備、自転車利用環境整備に取り組む地方公共団体に対する支援、道路構造令の改正、社会実験の実施等の施策を実施しているが、実施に当たっては、@具体的な整備手法が不明であることと、A都市部では沿道利用が進み、道路空間に制約がある等により、道路構造令どおりの整備は困難であることの二課題があり、現状に即した環境整備の手法が必要であるとして、「自転車利用環境整備ガイドライン」を策定したとしている。「21世紀の自転車利用環境の実現を目指して」は、カラー舗装により自転車の通行部分を明示する手法を例示している。「自転車利用促進のための環境整備に関する調査報告書」(平成11年5月)は、自転車走行空間の確保方策として、@道路の構成要素の幅をすこしづつ縮小、A自動車の駐車帯・車線数・植樹帯のいずれかの機能を集約又は移設、B道路の拡幅に併せて整備、C既存の緑道・河川堤防の活用等により分離型の走行空間を整備することと、共存型の走行空間を整備する場合には、@歩行者との共存の場合は、歩道の段差解消とともに標識の整備などにより歩行者の安全性の向上と自転車の走行性の確保に配慮し、A自動車との共存の場合は、速度規制やハンプ設置などにより自動車走行速度を制限し、自転車の安全性向上を図ることに配意することを提示している。

19自転車環境モデル都市の整備(77.)は、多くはカラー舗装により歩道の自転車・歩行者通行区分を視覚的に分離する共存方式であり、車線を縮小して自転車レーンを整備するケースは少ない。疋田智氏は、「自転車レーンは、『必ず車道を潰して作らなければならない』ということだ。時折見かける歩道を半分に区切った自転車レーンには何の意味もない。」、「自転車が環境に貢献するのは、…今までクルマに乗っていた人が自転車に乗るからなのだ。」とし、さらに、自転車のスピードが増し、自転車と歩行者の事故が間違いなく増えると指摘している(78.)。朝倉康夫氏は、「自動車交通需要を充足するように計画された道路ネットワークを前提に、歩行者や自転車利用者のためのネットワークを構成していく考え方のみでは、道路交通空間の適切な再配分を実現させることは難しい。自動車交通の需要予測からスタートする限り、残された道路空間を歩行者と自転車が奪い合うという図式は変わらないのではないか。」と指摘している(79.)。

77.国土交通省「エコサイクルシティの実現に向けて<http//www.milt.go.jp/road/road/bicycle/data/2-4.html>
78.疋田智『快適自転車ライフ』岩波書店2000,p.135.なお、渡辺千賀恵『自転車とまちづくり』前掲注p.164参照。
79.朝倉康夫「ポストモータリゼーション社会を考える〜道路交通空間の再配分〜」『交通工学』36巻1号,2001.1,p.20.
(2)自転車の歩道通行の規制
自転車(普通自転車)は、道路標識等により通行できることとされている歩道を通行できるが、この措置は「緊急避難的措置」といわれながらも、その条項に改正は加えられておらず、で掲げたように、歩道通行を前提にした新たな施策が講じられている状況にある。
岡並木氏(80.)は、「歩道に自転車を上げるというのは、歩行者へのしわ寄せによって問題を解決する方法だ。」、しかし「歩道さえない道がある現在、一挙に、自転車道を市街地に普及させることは、やさしくない。」とし、歩行者の権利を尊重するために、@自転車利用者が、ほとんど守っていない道交法を守るように、警察官が現場で指導する、A道交法を改正して、人通りの多い歩道では、自転車を降りて待つか、押すことを義務づけることなどと提案している。
山中教授は、交通手段としての自転車を認知して、走行空間整備を図っていく必要があるが、自転車についての研究があまりなく、@自転車のトリップ長すら解らない、A自転車と歩行者の混合状態でどんな状況になるのか、どれくらいまで歩行者と自転車が共存できるのか(空間の適正配分論)解っていないとし、「基準もないまま、歩行者空間に自転車をあげてしまったのが現実で、実際には自転車に席巻されている歩行者空間も多くて高齢者がおびえながら歩いているという状態も見られます。」、「どれくらいの幅で専用空間をつくっていけば、自転車が十分快適に走れるかを明らかにする必要があります。」と指摘している(81.)。研究会報告書(p.12)は、原則車道走行に向けて、道路区分の再配分(クルマ、自転車、バスの共用)、自転車走行区分の明確化及び道交法第63条の4の段階的廃止を提言している。

80.岡並木「自転車を利器として生かす道を忘れている日本」前掲注p.10.
81.「座談会新世紀の道路空間のあり方」前掲注 p.10.
(3)自転車の安全教育と指導取締
多数の学識経験者は、自転車利用者のマナーの悪さを指摘している。右側通行、二人乗り、夜間無灯火、飲酒運転、信号無視、歩道通行時のルール無視などとともに、最近は携帯電話で通話等しながらの自転車利用が指摘されている。
自転車利用促進の点からも、自転車利用マナーの向上は不可欠であり、そのための教育と指導取締が重要である。横島教授は、「500万人の自転車通学者に対して、実の上がる安全教育が何よりも必要だという視点がすっぽりと抜け落ちている」(82.)と指摘し、また、国際交通安全学会「新・自転車教育システムの研究報告書」(平成4年)は、小・中学校では自転車教育のためにとれる時間はほとんどないのが実情であり、自転車安全教育を交通安全教育の一環として充実させることが今後の課題であるとして、諸外国の教育方法を紹介している。
研究会報告書は、荒川区が実施している「自転車免許制度」などを紹介しながら、@小学校低学年のカリキュラムに、実地を含む自転車教育を加えるべきである、A自転車新法には、自転車利用者の権利・義務を具体的に明記し、違反者には行政罰を科すべきであるなどと提言している。今後、自転車教育をどのように構成していくかが課題の一つである。
指導取締りについて、岡並木氏は、「警察官が街角で、この義務を自転車利用者に積極的に指導している姿を少なくとも私は見たことがない。それどころか、残念ながら警察官の自転車が、歩道で人に接触したり、横断歩道を乗ったまま渡る姿を見かける。」と指摘している(83.)。ようやく、平成16年度の交通安全業務計画で街頭における指導取締り強化の方針が出された。

82.横島庄治『サイクルパワー』ぎょうせい,2001,p.87.
83.岡並木「自転車を利器として生かす道を忘れている日本」前掲注p.9.
3放置自転車

山川助教授が「交通手段としての自転車は、走る時と駐める時にそれぞれの空間を必要とする。(84.)」と指摘するように、放置自転車は常に問題となる。都の平成15年調査では、放置自転車は前年対比12%減の約15万台で、多い駅の一位は池袋駅(豊島区)、二位は大塚駅(豊島区)とのことであり、依然として大量の自転車が放置されている。

84.山川仁「自転車交通の役割と可能性」前掲注p.13.
(1)放置自転車等対策推進税(85.)について
放置自転車問題が改善されない中で、平成12年度の法定外税制度改正以後、自転車税制論議が起こり、豊島区では放置自転車等対策推進税の導入についての議論がなされている。なお、法定外税としては、荒川区の放置自転車防止マナーシール税と墨田区の自転車取得税が一時検討対象とされた。
豊島区議会は、平成15年12月9日に「豊島区放置自転車等対策推進税条例」案を可決した。豊島区区税調査研究会報告書(86.)(平成13年12月)を受けて、平成14年1月に放置自転車対策税の導入構想が発表され、以後豊島区法定外税検討会議で検討が進められた。平成15年9月の豊島区の法定外税に関する報告書は、自転車駐車場の設置維持等・放置自転車撤去の費用の一部を「放置自転車等対策税」として鉄道事業者に求めることが妥当かという観点から検討し、@自転車放置者・駐車場利用者の約70%は鉄道利用者であり、費用負担を放置者等・区民・鉄道事業者で分かち合うことは社会的に見て合理性があること、A豊島区内の駅から直接乗車した人員を課税標準とし、鉄道事業者に求める費用の総額は、放置者等の負担総額を上回らず、かつ、費用総額から放置者等の負担総額を控除した額(区の実質負担額)のすくなくとも二分の一以下とすること、B地方税法第733条の各号列記に該当しないこと(課税標準が違うこと及び著しく過重になることはないこと・物の流通に重大な影響を与えることはないこと・国の経済政策に照らしても不適当でないこと)などとして、その導入を妥当としている。「鉄道利用者が駅までの交通手段として何を用いるかについて鉄道事業者には何の責任もない」とする見解については、@改正自転車法第5条の協力義務解除規定は、鉄道事業者にも放置自転車対策についての社会的責務があることを示していること、A改正自転車法に係る運輸省鉄道局長通達にいう鉄道事業者の主体的な取組が十分であったとは判断できないとしている。
鉄道事業者(87.)は審議過程で反論している。平成15年11月25日の区長等に対する申入れにおいては、新税構想は改正自転車法との関係や課税の応益原則・公平性の観点などから違法であるとしている。平成15年9月18日の意見は、@改正自転車法上、鉄道事業者の責任が協力義務の範囲にとどまり強制しうるものではないこと、同法第5条第2項ただし書の解釈を誤っていること、A「…社会的責務があることに鑑みると、鉄道事業者はこれまで豊島区が実施してきた様々な放置自転車対策によって少なからず受益を得てきた…」とするが、ここで言う受益は応益原則に係る受益たるに値しない、B鉄道事業者は、改正自転車法の趣旨にのっとり取組を進めている、C駅は通過点に過ぎないこと、鉄道利用者以外の放置者等が存在することなどからみて、鉄道事業者を狙い撃ちにする公平性に反する新税であるなどとしている。新税構想についてのパブリックコメントでは、221件中、賛成・どちらかといえば賛成が142件とのことである。読売新聞は「放置自転車税鉄道に負担を課すのは筋違い」(平成15年12月5日)、毎日新聞は「地方独自税課税の相手を間違えるな」(平成15年12月13日)、東京新聞は「もう一度テーブルに」(平成16年5月10日)と題する社説を掲載している。また、諸岡昭二氏は、改正自転車法の趣旨を理解した議論がなされていないのではないかなどとして新税構想を批判している(88.)。この問題は、鉄道事業者の果すべき役割はいかにあるべきかという点に帰着すると思われる。
豊島区の協議申出(平成15年12月20日)を受け、総務大臣は、平成16年5月26日に、放置自転車の現状を改善するためには、両当事者が真摯に話し合い、合意の下に、協力しながら対策を進めることが重要であり、自転車法に規定されている「協議会」において話し合いを尽くすことを優先してはどうかとする意見を出した。

85.豊島区新税情報<http://www.city.toshima.tokyo.jp/sinzei/sinzei.html>
86.豊島区区税調査研究会報告書は、「…駅周辺の放置状況は引続き深刻な状況にある。これは自転車等を駅までのアクセス手段として利用する鉄道利用者を誘因する力に比して、鉄道事業者の自治体等への協力への調整に努める姿勢や、自転車等駐車場の設置への積極的な協力の程度、及び第5条第2項但し書きの趣旨への理解が、なお著しく不足しているためと思われる。」としている(p.39)。全国自転車問題自治体連絡協議会編『自転車対策研究』10号,1996参照。
87.東日本旅客鉄道、東武鉄道、西武鉄道、帝都高速度交通営団及び東京都交通局の5者。
88.諸岡昭二「放置自転車等対策推進税の可否について」『自転車バイク駐車場』290号,2004.2,p.2.
(2)鉄道事業者の附置義務に関する論議
新税論議の中で、全国自転車問題自治体連絡協議会代表の坂井保義委員(89.)は、「全自連は、放置自転車問題の大きな要因として鉄道事業者の協力が十分でないこと、そもそも根本的な原因として自転車駐車場の附置義務が法的に鉄道事業者に課せられていないことを再三再四訴えてきました。」、「鉄道事業者の社会的責任を『責務に応じた費用負担』という形で具現化できることに、現状からの一歩前進という意味で大いに評価したいと考えています。」などとしている。また、研究会報告書も、自転車新法に「鉄道事業者の社会的責務として、駅前駐輪場の義務化を明記する。」と提言している。この問題は、自転車法改正の際に、前回改正時以上に論議を呼ぶ論点となろう。

89.坂井保義「豊島区放置自転車等対策税の導入について」(平成15年9月17日豊島区法定外税検討会会長宛て)
(3)レンタサイクル−自転車の共用
放置自転車対策の一環として、レンタサイクルなどを導入する市区町村(90.)が増えている。自転車を共同で利用することにより、自転車総量と放置自転車の削減を図ろうとするものであり、さらには近距離交通の公的交通手段として位置付けることをも目的としている。都市型レンタサイクル(91.)には、レンタ・サイクル・システム(駅等で貸出をうけ、その場所に返却する方式。RCSという。)とコミュニティ・サイクル・システム(対象地域の複数の自転車駐車場で貸出・返却できる方式。CCSという。)がある。RCSは、利用時間差に着目して、駅へのアクセス交通(正利用)と駅から通勤・通学先へのイグレス交通(逆利用)が交互利用し、一台で複数の交通をさばき、かつ、駐車面積を削減できるとして、平塚市、上尾市、東京世田谷区、練馬区等で実施されている。CCSは、RCSを発展さ
せたもので、複数のレンタサイクル施設(ポート)の相互利用により地域内交通機関としようとするもので、練馬区(ねりまタウンサイクル、6ポート)、台東区(12ポート)、高松市(3ポート)等で実施されている。
このシステム(共有自転車)については、構造上の安全性維持が難しいこと、体格に合わない画一的な自転車、自転車の置去り等の問題点があり、普及していないが、多くの論者はこのシステムを支持している(92.)。しかし、疋田智氏は、@共有自転車は置き去りにされたまま朽ちていく存在になり、自転車そのものの価値を貶める結果となる、A共有自転車として供することができるのは、ママチャリ程度の性能の自転車で、自転車の可能性を減じるやり方だ、B故障にどのように対処するのかなどとした上で、デポジットのあり方、置去り自転車をなくすための方法等についての画期的なアイディアがでない限り、「共有自転車にそう明るい未来はないと思う。」としている(93)。

90.国土交通省道路局の「自転車施策先進都市」・「自転車を活用した社会実験」で紹介されている<http://milt.go.jp/road/road/bicycle/index.html>。
91.「自転車の高度利用(レンタサイクル等)」『自転車対策研究12号』1997、篠山俊夫「地域における自転車の有効活用」『都市問題』83巻5号,1992.5,p.27、宮崎俊和「都市型レンタサイクルのすすめ」『都市問題研究』46巻11号,1994.11,p.143、高岸節夫他「これからの駐輪場と都市型レンタサイクルC」『自転車バイク駐車場』238号1999.10,p.2等。レンタサイクルには、この他に、観光用やスポーツ用に貸し出す行楽地型があるとされている。なお、水色の自転車の会『自転車は街を救う』新評論2002参照。
92.研究会報告書は、「公共(共有)自転車のあり方について、国はより意欲的に取り組むべきではないか。」、「放置自転車の再利用を含む共有自転車、および多数の人間が一台の自転車を共同で使用する共有自転車も、循環利用と位置づけられてしかるべきである。」などとしている。
93.疋田智『快適自転車ライフ』前掲注p.152.
4その他の課題

(1)自転車盗難−防犯登録
防犯登録制度は、自転車税の廃止(昭和33年)に伴い、自転車盗難対策として、自転車商業協同組合を中心に新たに設けられた制度である。自転車法では、防犯登録は自転車利用者の努力義務とされていたが、改正自転車法では、自転車利用者の義務とされた。防犯登録が、盗難防止・被害回復とともに、放置自転車対策に資するとの観点から、義務化されたものであり、併せて、市町村から撤去自転車等に関する資料の提供を求められたときの都道府県警察の協力義務が規定された。防犯登録をしている率(ラベル交付数/国内供給台数)(94.)は、改正自転車法により逐年増加し、平成10年には76.1%となったが、以後低下し、14年は63.7%である。研究会報告書は、防犯登録の貼付率(防犯登録をしている率)が低下しているが、その向上には限界があること、自治体照会に対する回答に期日(10〜20日)を要することなどの点から、放置・盗難に一元対応できる新たな自転車登録制度(製造番号・登録番号情報を電子情報化し、警察と自治体が共有する仕組み)を提唱している(95.)。
また、『自転車対策研究』第14号は、意見整理のなかで、自転車登録制(自転車を地方自治体への登録制とし、一定期間が経過する度に登録税を徴収する制度)の検討(96.)が必要となってこようと指摘している。

94.『自転車統計要覧第37版』前掲注p.163.
95.研究会報告書は、自転車登録制度の具体的なシステム設計については記載していない。
96.『自転車対策研究』第14号(p.92)は、「保有登録料を徴収するシステムは、システムの継続的な維持管理だけで相当の費用負担が必要となり、徴収した金額だけでその負担を賄いきれない可能性がある。」と指摘している。
(2)自転車の構造上の安全性
基本問題研究会報告書は、灯火装置の装備を道路交通法上の強制基準とすべきであるとするとともに、自転車の安全性確保に関する現行制度の普及促進に努めるべきであるとしており、構造上の安全性全体について新たに規制することを提案していない。これに対して、研究会報告書は、今後自転車の製品欠陥・整備不良による重大事故がかなりの確率で発生しうると考えられる(97.)として、@国は既発生の事故状況を早急に把握するとともに、製品安全基準の見直し・民間の安全への取組の強化を図るべきである、A製造・販売業界の自主的な努力がなおも不足している場合には、リコール制度の導入など新たに国レベルの自転車製品安全基準を検討すべきとしている。この議論に当たっては、まずもって事故実態の把握が重要であろう。

97.本稿「I2自転車の安全性について」参照。
(3)自転車のリサイクル
自転車産業振興会の調査報告書(98.)によれば、平成15年には廃棄自転車649万台(粗大ゴミが445万台、放置自転車が111万台、下取りが92万台)であり、資源リサイクル率は78%(再資源化が553万台、再生利用が66万台、埋立処分が30万台)とのことである。放置自転車については、再生利用が21万台(平成10年は1万台)、小売店への売却が9万台(10年は12万台)、粗大ゴミが15万台(10年は11万台)とのことである。
基本問題研究会報告書は、放置自転車の中には半ば廃棄のつもりで放置されたものがあり、処分費用は多大な額に達するとして、@自転車販売店での下取り等により廃棄予定の自転車を回収すること、A原因者負担を徹底させるために、廃棄費用を自転車価格に上乗せする等その内部化をはかることを今後の課題として検討すべきであると提言している。また、自転車対策研究第14号は、デポジット制(自転車販売時に自転車問題対策費を充当するための費用を販売額に上乗せし、利用者から徴収するシステム)の導入について検討する必要があると提言している。横島教授(99.)は、自転車のリサイクル率が低いことから、「循環型社会の仲間外れだ」として、放置自転車問題も排出者と拡大生産者(物を作る人や販売する人)の責任という視点から考えるべきであるとしている。なお、自転車産業振興会は、資源の有効な利用の促進に関する法律、循環型社会形成推進基本法等が制定された状況をふまえ、産業構造審議会の「品目別廃棄物処理・リサイクルガイドライン」に対応した「自転車製品アセスメント・マニュアルガイドライン」を平成14年3月に策定している。自転車についても、循環型社会の視点からのリサイクル対策の検討が今後の課題となろう。

98.自転車産業振興会「平成15年度不要自転車の回収・処理及び再資源化に関する調査報告書」2004.3.
99.横島庄治『サイクルパワー』前掲注p.100.
(4)自転車通勤
疋田智氏が「自転車通勤で行こう」等を上梓し、自転車ツーキニストという新語が造語されるなど自転車通勤が話題にのぼっている(100.)。欧米諸国では、自転車通勤のための施策が講じられているが、我が国では名古屋市等で見られる程度で、施策としてはほとんど取り上げられていない。中小都市では通学に相当数利用されていることをもあわせ考えると、自転車通勤・通学についての施策も今後の課題となろう。研究会報告書は、通勤手当の割り増し、企業における自転車通勤のための施設設置等を提言している。なお、古倉宗治氏は、自転車通勤奨励策の自治体の採用可能性と住民の受け入れ可能性・施策効果は高いとしている(101.)。


100.最近では、「思い立って自転車通勤」『毎日新聞』2004.2.15、「増えてます!銀輪族」『読売新聞』2004.4.11.
101.古倉宗治「自転車通勤等の推進による自転車利用促進策に関する一考察」『計画行政』26巻3号,2003.9,p.37.
おわりに

我が国においても、放置自転車対策・事故対策としての自転車施策から、都市内交通手段としての自転車に係る総合施策へと転換する気運がようやく醸成されつつある(102.)。しかし、自転車の評価は、依然として極めて低い。自転車をめぐる諸課題は、我が国の社会・経済・交通実態を如実に反映しており、その実態は都市毎に異なっている(103.)。都市の自転車利用の実態に適応した施策が実施されなければならない。今後論議がさらに深まり、法整備(104.)を含め、実効性ある施策が実施されることが期待される。

102.渡辺千賀恵監修『自転車主義革命』(望星ライブラリーvol.4東海教育研究所2001,p.6.)は、「時代が、新しい価値観を形づくりつつあります。『心身の健康』や『家族関係』、『人間関係』、『地域の再生』、『環境保護』などをキーワードに、自分らしさを取り戻そう−という動きです。」、「この新しい価値観を『自転車を利用することで具現化しよう』と動き始めた人々の姿があります。効率主義に追われない、豊かで健康な暮らし、環境保護に視点を置いた日常生活、安全で暮らしやすい街づくり−などを実現するうえで、『自転車が多いに役に立つ』と考える人たちです」としている。
103山中英生「地区道路における自転車利用環境の課題と改善方向」『交通工学』36巻増刊号,2001,p.10.
104小杉隆「自転車「活用」を実現する法整備を」『都市計画』51巻3号2002.8,p.9.なお、自転車活用推進研究会試案「自転車の活用の推進に関する法律(案)」<http://cyclists.at.infoseek.co.jp/houanka.pdf>参照。
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